『5.きみのいない未来だけ』


世界は勇者の手によって救われた。
魔王は勇者の聖剣ヒュンベリオンによって心臓を串刺しにされ、魔物の猛攻は止まり。
世界に安寧が齎されました。

めでたし愛でたし。


陛下の心臓に勇者の剣が突きたてられる、その瞬間を俺は見ていた。
なぜ俺は何も出来ないんだ。
陛下の為に勇者を殺すつもりでいたのに、陛下の気持ちを考えると、それを踏み切れなかった自分の迷いが今は憎い。

俺は陛下に、愛していると伝えたことも無かった・・・

ゆっくり映像の中で崩れ落ちていく陛下に、声をあげる。


ああああああぁぁぁ!!!

絶望が俺の心を侵食する。

我々魔貴族を抑えていた部屋の術が消失する。
それは同時に陛下が亡くなったことを意味していて・・・俺は堪らずに『処渡りの術』で魔王の間に飛んだ。

誰も俺を止める者はいない。


ふわりという体感と共に、俺はそこに降り立った。
途端に勇者が殺意のこもった目線を俺に向ける、

「魔界伯爵ダンダリオンッ!!」

だが俺はそれどころではなかった。
陛下が床に血だまりを作って、仰向けに倒れている、その姿に泣きそうになる。

「陛下っ」

声を上げ駆け寄れば、勇者パーティーが臨戦態勢に入るが気にも留めなかった。
魔法使いが詠唱を始める。

ただ陛下の下に行きたくて、駆け寄る。

魔法使いの手から放たれた灼熱の魔法を背に受けても気にしなかった。

「ゥッ・・・陛下。」

俺の唯一の魔王に。

手を伸ばして。

そのしなやかな体を抱き寄せた。

「陛下ッ・・・シンキッ陛下」

名を叫ぶと、うすらと陛下の重たげな瞼が開かれて俺を映す。
避けられない死を予感させて、俺は知らず涙が溢れた。

「泣いて、の、か・・・ダン、リォ」

俺を漆黒の瞳に映して、微笑んだ。

「泣く、な」

知らずに涙が陛下の頬を濡らしていく、愛しい、愛しているのに。

「愛してます、陛下っ・・・俺はずっと貴方を、」

俺の腕の中で、その瞳を見開いて・・・柔らかく幸せそうに陛下が笑うから。
俺はどうしようもなく泣けてしまって・・・
ゆっくりと震える手で陛下が俺の頬に伝う涙を拭ってくれる。

「俺も、だ」

その言葉を最後に彼の手はパタリと地に落ちた。
かざした手のひらから・・・大切な者がすり抜けてゆく感覚・・・

微かに微笑んでいる陛下の姿に、涙が止まらない。

すきだ


胸が熱くて、愛おしさがあふれて。
だが・・・次の瞬間、魔王の体は、ダンダリオンの腕の中で漆黒の光になって霧散した。

「あああぁぁぁぁぁああ!!!!!」

自分の唯一が消えてゆくのがダンダリオンには分かった。
あれほどまで感じていた魔王・シンキの力が一瞬にして消え失せる。
浄化されて散らばるのが分かる。

「魔王」は世の悪意や恨みといった念を、その身に取り込んで「勇者」に殺されることで浄化する。

その役目ゆえに「魔王」の身は蝕まれているのに彼は気丈に「魔王」であり続けた。

天界と魔界と人間界で定められた理。
はじまりの理。
人間界の人々が数千年前の理を忘れ、ただ魔物が人を襲うのは「魔王」の所為だと闇雲に「勇者」を送ってくるのとは違う。

真の意味で・・・「魔王」は魔を制御する為に、「魔王」として君臨していた。


俺はそんな貴方に恋をした。
貴方がいない。
この世界に何処を探しても。
俺が恋した貴方はいない。
けれど世界は回り続ける。
世界は、動き続ける。


世界は勇者の手によって救われた。
魔王は勇者の聖剣ヒュンベリオンによって心臓を串刺しにされ、魔物の猛攻は止まり。
世界に安寧が齎されました。

めでたし愛でたし?




完結しました、当初の目論みより内容薄くなりましたが(え?)これで一杯一杯でした。

ダンダリオンは、この後、旅に出て魔王が守った世界を見て回ります。
勇者さんはダンダリオンの姿を見て、魔物側の真実を知り、世界の歪みを根本から正すために正しい理解を人間側に広める活動をします。彼は後々王様になります。
レインフェールは魔王の魂を最後の最後で救って復活の儀式かけて復活させて、ダンダリオンと逢わせてくれます。
最後はやっぱりHAPPY ENDv

そんなお話でした。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -