3

濡れて重さを感じさせる黒琥の上着を車の座席に置いて、次に惣一はリムジンの座席の一部をドンッと強く押す。
叩きつけるような、その動作には今の状況における彼の機嫌を如実に表していた。
キシッと僅かな音をたてて背もたれが倒れてきて、そこの開かれた空洞には毛布が丸めて入っていた。

惣一はふわりとした手触りのそれを手に取って手早く広げ、黒琥にかけると、その体を隠すようにしながらも毛布に手を差し入れて、器用に黒琥のズボンのジッパーを下げる。
上半身を脱がすだけでは体温が冷えると判断した為だ。

そのまま手を引っ掻けて引っ張れば太腿までは何とか脱がすことが出来たが、そこから先は濡れているせいか引っかかる。
車内に響いたのは不機嫌そうな舌打ち。

惣一は仕方なく、ギシッと座席を軋ませながら自分の体を黒琥の間に入れた。そして足を一本ずつ濡れたズボンから丁寧に抜き取る。
その動作で仕方なく、めくれ上がった毛布から黒琥の白い足がすらりっと見えて惣一は眉を寄せる。

傍から見たら意識の無い人間を襲っているしか見えないだろう。
それだけでなく自分の中に生まれた微かな惑いを感じたためだ。
「茶番だ」
だが惣一は自身の感情を溜息一つに留め、手を止めることなく淡々とズボンを脱がせた。

***

流石に下着はそのままで、服を脱がせれば後は毛布にくるむだけだった。
はぁっと深くついた溜め息とともに黒琥の隣りの座席に身を沈めた惣一。
彼も雨に打たれているが、リムジンの中の暖房が彼を温めてくれた。
そして視線をまだ意識を戻さない黒琥に向ける、だがその顔色はまだ青白い。

「面倒くさい奴だな」

そう言って、黒琥の濡れそぼった前髪を掻き上げる。
その手つきは言葉とは裏腹に、柔らかかった。
そして再び、深くふかく溜息を零すと、幾分濡れている自身のシャツを脱ぎ、しなやかに筋肉のついた、その体を晒す。

そしてゆっくりと壊れ物のを扱うように黒琥の上半身に手を差し入れて、自分の膝上に黒琥を抱き上げた。
「冷てぇ…」
肌を触れ合わせて温める。
氷のように冷えている黒琥に惣一は悪態をつきながらも決して離さなかった。
ゆっくり自分の体温をわけつつ、手をすり合わせ、自分の腕の中にいる黒琥はアイボリー色の毛布もあいまって、まるで蓑虫のようで、クツリッと惣一は笑みを零した。

「間抜け、俺に隙を見せてんじゃねぇよ」

その笑みは誰に届くことも無いものだった。
だが確かにそこには優しさがあった。
意識の無い黒琥が僅かに身じろぎする。

(あったかい。
さっきまで凍えるほどに寒かったのに、″此処″は酷く温かくて、なんだか泣きそうになる。
声も聞こえる、惣一の声。

なんだこれ…夢か。
あったかい、すげぇ幸せ。)

ぽたっと黒琥の閉じられた瞳から涙が零れ、無意識にすり寄ったので惣一は彼にしては珍しく驚きと困惑で瞳を見開いた。
だが決して突き放さずに指で涙をすくう。

「…」

懸命にも無言を守る惣一だったが、彼の瞳は言葉より雄弁に黒琥を見詰めていた。
そして数瞬の後に強く掻き抱くように腕の中の黒琥を抱き寄せたのである。

月宮の屋敷に到着したのは、それから数十分後のことだった。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -