惣一は無駄なことを話さずとも動くことが出来る松田を重宝していた。
ましてこんな稼業で余計なこと言わずに動く男というのは好ましい。
音も無く滑り出すように車が動き出し、東京の街並みが流れるように過ぎ去る。
車の窓はいつの間にかカーテンが自動で引かれていたし、惣一が何も言わずとも一気に車内の暖房が効く。
それだけで人一人、次も側に置くのには充分な理由なのだ。

惣一はU字型に張られたリムジンのソファに一先ず黒琥を置いてから、自分は素早く着ていたスーツジャケットを脱ぐ。
ずっしりと水を吸って重くなったそれを横に放りながらネクタイをシュッと解いて、それも放る。
「あとで新しいの買うか」
水を吸ってぐしゃぐしゃなスーツを着るなど彼の感覚ではあり得ないことだった。
例えそのスーツが10万以上だとしても。

ゴォーッ。
温風が音もたてて吹きつける、ツゥッと前髪から滴った雫が惣一の頬を濡らした。
それをグイッと手の甲で拭うと惣一は目の前の黒琥の処置に取りかかった。

水というものは渇くときに熱を奪う。
低体温症のよくある事例としては、雨に降られた人間が、濡れた体のまま冷房の効いた電車に乗車することが挙げられている。
それを惣一は知識として知っていた、だから躊躇いは無かった。

黒琥の服を脱がせる。

黒のライダージャケットも、その下のシャツも躊躇なく引っぺがす。
すると成熟しきってない柔らかな肌が露わになる、濡れて冷え切った肌だ。

手のひらから伝わる体温の冷たさに瞳を細めつつ、惣一は手を止めなかった。




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