同室者たち

緋酉なんぞ居なくたって清々するか。
思ったよりダメージを受けている自分を自覚した。
指先から冷えていくような感覚すらする。
軽く息をつく。

そんな俺を横目で見ている風紀委員長の視線には気付かなかった。

***

会長が食堂から退出するのと時を同じくして、風紀委員長・影宮 御琴は事態収束の為に風紀委員に指示する。
すると一般生徒の輪の中から事態を見守っていた風紀委員たちが、どこからともなく現れ一般生徒の解散、誘導を速やかに行っていった。

風紀委員長・影宮 御琴。
赤茶の髪と精悍な風貌を持ち野性味あふれる彼は、その不良然とした態度と格好からは想像がつかない程に有能だ。
風紀委員には彼の懐の深さに惹かれて入りたいと願う生徒が多数いる。
それをなんとはなしに見ていた緋酉だったが影宮がフッとこちらを向いて視線がかち合い、慌てて逸らした。
そのまま影宮からの視線が刺さっている気がして顔は上げられずに、意味も無く他の親衛隊隊長たちが先程いた席へ視線を流す…隊長たちは、もうそこに影も形もいなかったのだが。

風紀委員長と長らく接近してこなかった緋酉からすると、これは予想外の出来事だ。
かつて…風紀委員長・影宮と緋酉は同室で、「親友」だった。
まだ会長に恋していなかった緋酉は、同室の影宮と中学時代を過ごしたのだ…同じ部屋で繊細で多感な時期を、側で共に過ごし成長した。

あれは透きとおったガラス細工のような友情だったと緋酉は想う。
あまりに綺麗でキラキラ心に残っている。
失くすとは想っていなかった。

けれど御琴の手を離したのは、緋酉の方だった。

***

「なぁ」

考え込んでいた緋酉は自分にかけられる声に振り返ると銀髪を照明にキラキラと照らされた転入生がどこか所在なさげに佇んでいた。
先程、生徒会長を殴り飛ばした男とはとても思えない。
彼を知らず放置していたことに気付いて緋酉は「すまない」とだけ言うと転入生に向き直った。

「俺の名は緋酉 慎。今日から君は俺の『保護生徒』になって寝食、学校生活を共にする。よろしくな」

そういって手を差し出した緋酉に、何も分からないまま転入生が手を握り返しながら首を傾げている。
「えっ?えっ?俺は今同室の皆藤って奴がいるんですけど」
あっこれは何も分かってないなと緋酉は直感でわかった。
それはそうだろう転入して直ぐに『保護生徒』なんてものに指定されたのだから。

(こいつの同室は皆藤…あの一年で不良の皆藤か。)

フッと視線を巡らすと少し離れたところで皆藤と、親衛隊持ちのスポーツ特待生の南方がこちらの成り行きを見守っていた。
恐らく生徒会が来てから会話を差し挟めなかったのだろう。元々転入生と一緒に食堂に来ていたのは彼等のだったのだろう。

「悪いね、皆藤君。君たちは離れて貰うこととなる」

俺が向けた言葉に僅かに瞠目した皆藤は罰が悪そうに短く刈りそろえられた金髪を掻いた。
彼の耳に付けられたピアスがキラッと光として目に刺さる。

「…総代が『保護生徒』って判断したこと感謝します。そうじゃなきゃ大変だったなって。」

格好で損してる、と緋酉は皆藤についてそう思った。まともだ。
フッと自然に微笑んでいた、そして転入生に向き直る。

「君は良い友人を持ったな。
なにも君の学校生活を縛りたい訳じゃないんだ。
君が慣れるまで…俺が大丈夫と思えるまでバックアップする。宜しく頼む。」

本当は会長と彼を引き離したい思惑があった。
そんな打算的な俺の考えを吹き飛ばすように、目の前の転入生は、空のような瞳を持つ転入生は快活に笑った。
笑うととても人好きのする印象となる。

「ありがとうな俺は柳沢 雄飛。よろしく!」

そして俺は僅かな罪悪感と共に、親衛隊総代となってから一人で生活してた自分の居住空間に一人の同室者を招いたのだ。





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