「あれは夕焼けが血のように染まった日のことでございました。」

そう口火を切った彼女の話は俄かには信じられないことではございました。
曰く、悪の騎士が彼女の夫である領主を捕虜にし、土地を奪ってしまったということです。
領主であるからには剣を扱うこともございましたでしょう、また領主を守り侍る騎士もいたでしょうに土地を奪われたというのです。
「そなたの夫君は無事なのか」とアーサー王が尋ねますと夫人は泣き伏しながらも頷き返します。
故にアーサー王は決意を秘めた瞳で凛と宣言なさいました。

「城に赴き、その騎士から話を聞こう。
事がつまびらかになり、そなたの夫に正義があるのならば私は助力は惜しまない。」

慈悲をお見せになり、更に夫人をキャメロット城で守ると宣言なさったのでございます。

***

此処で夫人の領地へ向かう手勢を選ぶためにアーサー王は動き始めました。
その領地へ行って、この件に関わった領主や騎士の話を聞かなければ、現状を把握することも、ましてや助ける事もままなりません。

アーサー王が下働きに剣と甲冑の研磨をお命じになられたところでアーサーの部屋を訪うものがございました。
木製のドアが開かれ現れたのは、甲冑を纏ったキャメロットが誇る凛々しい円卓の騎士達です。

順に円卓騎士の筆頭・ランスロット卿。
リオネス王子・トリスタン卿。
そして炎の騎士・ガウェイン卿でした。

「どうしたんだ、皆そろって怖い顔をしている」

微笑むアーサー王ですが本当は騎士たちが揃って此処に来た理由は分かっています。

「アーサー、三人で話し合いました。私達が行きますので貴方はキャメロットで報告をお待ちください。」とランスロット卿。
「俺の案内で半日も馬を駆ければ到着する、お前が出向くことではない」とトリスタン卿。
「安全なところに居てくれた方が俺たちは安心なんだ」とガウェイン卿。

三者三様にアーサー王を説得にかかります。
なにせこの王様といったら常々騎士たちの目をかいくぐって一人で城下に下りてしまわれるものですから彼等の説得も力が入るのでございます。
騎士として唯一の主に怪我の一つもさせたくはないのです。

けれど民の為ということが関わるとアーサー王は頑なです。

「私が行った方がその場で判断が出来るであろう」

淡く溶けるように微笑む姿は人を惹き付けてやまない抗いがたい魅力が溢れております。
騎士達は王のこの微笑みに弱いのですけれど負けるわけには参りません、なにしろ大切な王を守るためのことです。

「危険かどうか分かりません、どうか初めは円卓の騎士たちにお任せください」とランスロット卿、尤もなことでことでございます。

けれど王は一歩、騎士達の前に立ち、こう口を開きました。

「私は王であり、騎士だ。
騎士として、王としてお前たちの前で誇れる私でありたい。
卑怯者に誰が付いて来てくれるであろうか…危険であるなら、その場に私はいたいのだ」と。

王子であらせられた時から知っている騎士は口をつぐみ、そして溜息を零しますと彼等は微笑みました。

「王の意志のままに、俺たちの命は王のもの。王の願いを叶えましょう」

そしてガウェイン卿がアーサー王に忠誠の口付けを手の甲へと送りました。
出発は暁と共に、そしてアーサー王は出発なさったのでございます。




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