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2.止まらない運命に
全ては仕組まれている事など分からないのだろう、愚かな勇者は。
俺は勇者に差し向ける「魔物」リストを持って陛下の執務室の豪奢な扉の前に居た。
両隣を固めている番犬のケルベロスに頷くと、彼らは地に伏せたまま剣呑に「通れ」と言った。
高位魔獣の彼等は言語を操れる。
まさに魔王の番犬には相応しかった。
ギィッと重厚な扉を開ければ、陛下は紅茶を飲みながらソファーで寛いでいる所だった。
魔王だって食事もするし、ティータイムには茶受けのお菓子だって食べる。
そんな『人』だったら当たり前のことを『魔王』は当たり前だと思われていない。
それは酷いことだ・・・
そんな感情を押し込めて俺は陛下に微笑んだ。
「陛下、今度、勇者にさしむける魔物はいかがしますか?」
陛下は切れ長の瞳を俺に向けて、
「グリフィンは倒せたのか?」
「ああ、倒せましたが奴の仲間が手傷を負って一週間ほど寝込んだようです。」
「そうか・・・じゃあグリフィンを暫らくは差し向けろ、翼を持つ魔物に慣れた所でお前がちょっと扱きに出向け」
「畏まりました」
そして俺は深く頭をたれた。
歴代の勇者達は、なぜ気付かずに来たのだろう、考えないのだろうと俺はいつも不思議に思う。
なぜ最初の敵に高位魔物が現れないのか。
最初の敵はスライムからなのか、勇者が段々経験値を上げるごとに敵が強くなっていくのか・・・なぜ気付かないのだろう?
全て魔物を統べる『魔王』が『勇者』を『育てる』為に仕組んでいることだと。
それは自分を殺させるための哀しい連鎖だ。
歴代の魔王たちはその連鎖の中で何人も、死を受け入れて殺されていった。
それがどうして許されるというのか・・・世界を救う為にどうして魔王が犠牲になり続けなければならないのだろうか。
そして俺はこの止まらない運命に、唇を噛み締める。
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