1.いつか罪に呑まれても


煌びやかな玉座から、ガタンと崩れ落ちた漆黒の魔王の姿にその場にいた魔族たちは息をのんだ。

「陛下!」

だが駆け寄ろうとした彼等は他ならぬ魔王の制止する手によって、その場に留まる。

「騒ぐな」

そして、魔王の苦しそうな息遣いだけが響いている謁見の間で、一人の魔族が進み出て魔王を支えた。

「陛下、あまり無理をなさいますな…」

他の魔族には近寄らせることも許さなかった王が、その者にだけは体を預けることを良しとした。

ふわりと王を抱き上げ、悠然とその場を去る伯爵のレインフェール。
幼なじみである二人には他のものが入れない空気があった。

そして、その二人の姿を俺は歯噛みして見送る。

俺は魔界伯爵ダンダリオン・・・300の軍団を率いる東方の大悪魔。
だが魔王陛下にとっては、ただの部下の一人だった。

けれど俺は貴方に恋をしていた・・・愛してた。

だから「勇者」に殺される「魔王」の宿命を俺は断ち切るつもりでいた・・・「勇者」を殺して。

それは「罪」だ。

この世を滅ぼす罪・・・「魔王」は世の悪意や恨みといった念を、その身に取り込んで「勇者」に殺されることで浄化する。

その役目ゆえに「魔王」の身は蝕まれているのに彼は気丈に「魔王」であり続ける。

天界と魔界と人間界で定められた理。
はじまりの理。
人間界の人々が数千年前の理を忘れ、ただ魔物が人を襲うのは「魔王」の所為だと闇雲に「勇者」を送ってくるのとは違う。

真の意味で・・・「魔王」は魔を制御する為に、「魔王」として君臨しているのにだ。

瞳を閉じれば思い浮かぶ玲瓏な面影。
漆黒の瞳に髪・・・美しい闇夜のような俺の「魔王」。

102代目・・・魔王陛下。

シンキ

神気と通じる、その名。
愛おしくて、堪らなくて・・・
俺は謁見の間を後にしたのだった。

たとえ・・・この身が罪に飲まれても・・・




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