過去編3〜6『炎の騎士』3〜

前世でのガウェインの記憶は、ガウェイを苛んだ。
夢で見る過去は、まるで其処にいるかのように錯覚するほどに鮮やかだった。



ランスロットは最強の騎士。
祝福された"最強の騎士の聖痕"がある、だからどんな騎士であろうと彼には敵わない。

ではどんな努力をしても他の騎士はランスロットには敵わないのか?
ランスロットの力の前に他の騎士はひれ伏せばいいのか?
・・・そんな不条理は認めない。

自分や仲間たちの日々の鍛練は無駄じゃない、虚しさを感じても決して諦めたくない。
敵でありながらランスロットに向かっていき、そして死んでいった名のある騎士たちを敵でありながらガウェインは敬意を払ってもいた。


遥かな昔…多くの円卓の騎士がいる中でも特に、筆頭としてアーサー王に信頼されるランスロットと、炎の騎士として名高いガウェインは共に並び称される騎士だった。
けれど何度、御前試合をしても…ガウェインはランスロットに勝つことは無かった。

…ガウェイが前世の記憶を思い出したのは聖王の元にヴェルスレムが現れた直後だ。

一目見た瞬間にフラッシュバックのように前世と現世とか繋がる…全てでは無かったけれど充分だった。

『アイツはやめろっ!シュレイ!アイツだけは駄目だっ!』

その頃には既に軍事の面で最高顧問についていたガウェイはシュレイザードに言いつのったが聖王は笑うだけだ。

『彼には何も問題が無いだろう、ガウェイ?
確かに二人の魂の欠片を持つ者は珍しい…というか彼が始めてだが差別はするな、彼の能力は高い。』

聖王シュレイザードは高い能力を保持している、能力が高くになるにつれて開かれる傾向がある前世の記憶の扉であるのに、シュレイザードはガウェイの目から見て、不思議とアーサー王の時の記憶は持ってないようだった。

(もどかしい…言ってしまいたい、オレはお前を覚えているのに。)

記憶がない。
だからそんなことを言えるのだとガウェイは思う…ランスロットとモードレッドの魂の欠片を持った男などシュレイザードにどんな想いを抱くかなどガウェイには分かり切った事なのにだ。

執着をもって自身の王を見詰める男が気に入らない…それに気付かずに前世と同じように重用する聖王にも、もどかしい想いが降り積もる。
だって前世でも現世でも、出逢ったのはオレの方が早かった、それなのにアイツはあっさりと王の心の内側へと入り込む、まるで毒のようだ。

…俺とシュレイだけで隊を指揮して戦を勝利に導いたことなど数えきれない位あるんだぞ。

今のように領地も大きくなどなくて、村というぐらいから国を興して、シュレイも"聖王"などと呼ばれていなかった…ガウェイはそれ程にシュレイザードの側にいた。
共に戦場をかけて命を託し合う…夜通し語り明かすのは未来の国の姿。

そんな大切な存在だからこそガウェイはヴェルスレムが気に喰わなかった。

あの劣情を隠して澄ました顔…自分の唯一の主を、まるで愛する女を見るかのような目つきで見つめる男を。
…前世から何も変わっていない。

遠い記憶でランスロットに口付けをするアーサー王の姿を何度も見せつけられた。
御前試合で"勝利の誉"を得た騎士にのみ許される褒美はランスロットが独占していた。

『見事に御前試合を勝ち抜いたランスロットに、俺から祝福を』

決勝戦でなんども戦って、その度に敗北を味わされて目の前でアーサー王の祝福の口付けを贈られるランスロット。
当然のように、口付けを受けて…立ち上がり歓呼の声に応える『最強の騎士』。

それは"ガウェイン"である"俺"が咽喉から手が出るほどに欲しいものだった、その姿を何度もなんども見せつけられた…狂おしい程に嫉妬した。

それなのにランスロットはアーサーを裏切って死へ追いやったのだ…。



そして今、何の縁かアーサーにそっくりな人と出逢った。
ガウェイはそっと後ろを付いてくるシュザーとフルレトと名乗った旅人を窺う。
シュザーの金髪とエメラルドの瞳を見た瞬間、冗談じゃなく息が止まるかと思ったのだ。

・・・まるで数千年の時が巻き戻って、ガウェインとアーサー王として出会った気がした。

シュレイザードが攫われて、精神的にも参ってるからか…大分強引に屋敷に誘ってしまった上に、シュザーに対して大きな反応をしたから、フルレトといった青年はガウェイを警戒して、まるで手負いの獣のような目でガウェイを見ている。

シュザーほどの容姿を持つ連れがいれば周りが気を使わなければならないのだろう。
それはシュレイザードも、そうだったなとガウェイは雑踏を歩きながら、少し笑うことが出来た。

鴉の濡れ羽のような漆黒の髪に、空を切り取ったような青色の瞳を持つガウェイの"聖王"。
彼が持つ濃厚な雰囲気は、その優雅な佇まいもあいまって出会う人を悉く魅了するのだ。
女も男もそれこそ老若男女あまねく人々が聖王を慕い、彼の元に集う…ガウェイには、それが嬉しいと思う反面もどかしい。

聖王は人々を受け入れるが、皆が皆、聖王を純粋に見つめるばかりではないのだとガウェイはよく知っていた。
その筆頭が、聖王の側に侍っていることや…今、聖王が行方不明なこともガウェイには胸が掻き毟られる程にもどかしい。


ガウェイは空を仰いだ・・・聖王の瞳と同じ虹彩の空を。


・・・シュレイザード、今、お前はどこにいるんだよ。




レガンが到着しているかもしれないからとガウェイに広場に寄って貰うと、早い時間にも関わらず彼は雑踏の中で佇んでいた。
耳もないから上手く溶け込んでおり、麻袋をかついだ銀髪の青年はどっからどうみてもヒューマンの旅人だ。
端正な容姿だから女の子たちがレガンを熱い眼差しで見たりはしてるものの、獣人だとバレタ様子はなかった。

「レガンッ」

呼びかけて手を振るとレガンは人波の中に俺とフルレトを見つけてホッとしたように笑った。
それだけで彼の張りつめた空気が弱まるから不思議だ。

「シュザー、フルレト、悪かったな。」

「いやそっちは大丈夫だったか、レガン?」

フルレトが心配そうに声をかける、そりゃあルルカちゃんがいるからね、お兄ちゃんは心配だろう。

「大丈夫だ、問題ない…ところでこちらの方は?」

そしてレガンは俺たちの横に隙なく佇んでいたガウェイに視線を向ける、明らかに皇国の騎士であるガウェイをはかるような視線を向けるレガン。
そんなレガンにガウェイはその端正な顔に笑みを浮かべて、左手を腰の前に、右手を腰の後ろに置いて礼をする。
彼がそうすると一枚の絵画を見ているようで、様になっている。

「俺の名はガウェイ。聖王陛下に仕える皇国の騎士…縁あって此処の二人が因縁をつけられている所を保護し、我が屋敷に招いた次第。」

レガンが俺たちの中で決定権を持つ者だということを感じて顔を使い分けたのだろう…流石だ。
さっきのフルレトと相対した時とは雰囲気が違う。
ただ軍人として強いだけでは、皇国の軍部の最高顧問は務まらない、
こういう空気を読むのも長けていなければ海千山千の官僚や議会を相手には出来ないだろう。

レガンは俺たちに確認するように視線を向けて、オレが頷いて、フルレトが首を振ったので彼はフッとため息を零すように笑った。
彼もこういったことの空気を読むことに長けている、正確に今の状況を把握したのだろう。

「レガン、彼は信用できる」

だからオレは体を寄せて彼に耳打ちする。
だってオレは"皇国の将軍・シュザー"っていう設定でここにいるんだしね。
レガンは何かを考える様に俺の言葉を聞いている。

「オレは人を見る目は持っている…けどこれは、そういうことじゃない。」
「えっ?」

何がなんだかわからない。
そんな俺の様子にレガンは「知らぬは本人ばかりなりってな」と苦笑して、耳打ちするために寄りそっていた俺の腰を抱き寄せる。
途端にガウェイの瞳が見開かれるのが分かって、オレは顔から火が出そう、なにこれ恥ずかしい。
ガウェイの前で抱き寄せられるって恥ずかしい。

「ご厚意は感謝するが申し訳ない…この者を守るためにも屋敷には参ることは出来ない。」

えっと思ってすぐ側の端正な顔を見上げる。それはだって…

「…オレが不埒を働くとでもいうのか。」

そう…ガウェイが俺たちに何かするっていうのと同義だ。

「この者は人を疑うことを知らない…だからこそ辛い目に沢山あってきた。
守るのは俺の役目だ。
どうやら彼の容姿を見知った様子…分かるだろう?」

ガウェイは無言で俺を見詰めている。
辛い目になんて合ってないんで、ガウェイの真っ直ぐな視線が居た堪れない。
こんな風に見つめられるのが恥ずかしくてレガンの肩にグリッと顔を押し付けて、恥ずかしくて染まった顔を隠すと息を飲んだような気配が幾つもした…
俺の様子にレガンもフルレトもガウェイも、どんな目で見てるかなんて考えたくない。恥ずかしい、あり得ない。

そんな俺の様子をどう思ったのだろう。


「オレがそいつを傷つけるのなら、オレが死んだ方がマシだ。」


凛と響く、ガウェイの声にオレは顔を上げた。

彼はフードの奥から覗くオレの瞳に視線を合わせる様に手を差し伸べる。
…アーサー王の容姿だからガウェイはこんなにオレに親切なんだろうかと思いつつも、
その手におずおずと手を置くと、ガウェイは優雅な動作で手の甲にキスを贈った。


「お前の穢れなき魂に敬意を込めて…騎士はそれに応えよう。

どうか守らせてほしい。

今夜一晩でも良い…治安の悪化した聖都にお前を放り出すほどオレは薄情ではない。」


まるで宮中の美姫にする様にオレに赦しを乞う姿…流石は騎士の中の騎士だ。
彼の真っ直ぐな性格を知っているだけに、騙して申し訳ないっ!!という罪悪感が湧いてオレは唇を噛んだ。
でもきっとレガンもこれを見越して、ガウェイを焚き付けたんではないかと思った。

ここまで言質をとればガウェイが変なことをしないってレガン達も信じられて安心して屋敷に招かれるだろう。
そこでオレはまたフードを取る、途端に露わになる容姿に広場の空気がザワリッと揺れた。

「なんだ、すっげぇ綺麗っ」
「やべぇあんな子はじめて見た」

周囲の反応に、
途端に鋭さを増すガウェイとレガン達に申し訳なく思うもののフードを被ったままでは失礼だと思ってオレはガウェイに微笑んだ。


「貴方を信じます…高潔な騎士さま。」


そしてまだ俺の手をとっていた彼の手の甲に今度はオレが口付けを落とす。

「つっ!」

途端に彼の顔が赤く染まった。

アレ?オレは何かをやらかしたのだろうか?

頭上でレガンがそれは深く溜息を零したのを不思議な思いでオレは聞いていた。






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