過去編4〜7『紅玉の離宮』〜

"ストレイト皇国軍部最高顧問"という地位の通り、ガウェイは彼自身が大陸に覇を唱える皇国を動かす重臣である。
そんな彼の屋敷は崖の上に聳え立つヒュンベリオン城内に位置しており、有事の際にはすぐに駆けつけられるようになっている。
…というのも破格の待遇で城内の離宮一つが彼に与えられているためだ。


本来ならその離宮は『聖王』が結婚して生まれた『皇子皇女』が入る離宮だが。
何百年にも亘る『聖王』の治世において彼が未婚のため、広大な無人の離宮の扱いに困った『聖王』がその一つをガウェイに下賜した。

同様に聖王旗下の騎士たちは『聖王』から一定の信頼を得ると離宮を与えられ、その宮の規模やヒュンベリオン城内での宮の位置によって騎士のステータスは内外においてある意味図られている。
『聖王』が住まう『天空の尖塔』と呼ばれる城の最深部から、与えられた場所が近いか遠いかで『聖王』の信頼が見えるのだという。

今のところ『皇子皇女』が本来用いる程の離宮を与えられているのはガウェイを含めても数えるほどしかいない…そこからも彼の権力が現れているといえる。

そして『聖王』はガウェイには質実剛健な紅玉の離宮を与え、彼の炎のような髪に似合うと尊んだ。
紅玉の離宮ではガウェイが主に使っている東の間を中心に、東西南北に大きく分かれる造りとなっており、ガウェイは西と南の間は他の騎士達に解放していた。

それは彼自身が大変苦労し今の地位を築いたことから他者のためになればと彼が始めたことで、安い給与の部下たちや、軍部最高顧問であるガウェイ直属の騎士は勿論、日を区切って貧民に対しても職を探すまで衣食住を世話したりというようなことをしている。

広く門戸を開放して多くの人が住むことを良しとするのは軍事機密漏洩の危険があるという声は勿論上がったが、ガウェイ自身が屋敷で一切仕事をしないということ徹底して貫いたため、その声は封じられた。
ガウェイは紙一枚であろうとも仕事関係の書類は家に持ち込まずに執務室で終わらせる。

それは彼自身のためでもあるし、彼が守る弱い立場の者たちのためでもあるとガウェイはよく理解していた。
また彼の開けっ広げな性格から、食事に関しては大食堂をつくり自分も其処で仲間と同じものを食べている。

同じ釜の飯を食べてくれる軍事最高顧問さま、だからこそガウェイは騎士たちは勿論、国民からも人望が高かった。



そんなガウェイが離宮の正門に帰った時には、わらわらわらわらとまるで菓子に群がる蟻の如く騎士たちが次々と現れる。
筋肉達磨もいれば細マッチョもいるし、申し訳なさげに貧民階級の人も彼を迎えに来る、流石だ。

そんな様子だから、レガンとフルレトは目を円くして、さっそく此処に来たことを後悔しているようだった。
なにせガウェイが広場からヒュンベリオン城へ向かった時も驚愕して「やはり断るか」と二人で相談していたぐらいだ。
森育ちの田舎っこには刺激が強いだろうと思う。

でもオレがガウェイにどんどん付いて行ったから、彼等も付いてこざるを得なかったらしい。
いやでも、ガウェイって本当に良い奴だからね。

「お帰りなさいませっ!!」
「お疲れ様です!!」

口調は丁寧だが、体育会系のあの力強い挨拶をして歓声のように響きあう離宮の入り口で、オレは『聖王』として慣れてるとはいえ苦笑した。
ガウェイの方も慣れたもので紅水晶で建てられ精緻な意匠が施されている巨大な門の横に佇んで、俺たちを奥へうながしてくる。


彼の燃えるような紅の髪と翻る紅の長衣…射竦めるような覇気の溢れた金色の瞳。

銀と赤の鎧に太陽の光が反射して、その光景の美しさに息を飲むほどだ。

そして紅水晶の門が彼という存在を引き立たせる…やはりこの離宮は彼に相応しい。


だが彼に見とれるばかりでは居られない。
というのもガウェイがいるから咎められたりしないが、周囲からの興味の視線が無数に飛んできて非常に居心地が悪いからだ。
レガンは深く溜息を零し、フルレトは一瞬、周囲に獣独特の威嚇の視線を流した。

うん、咽喉を鳴らさなかっただけでも良しとしよう!

だが彼等はそれだけで腹をくくったらしく俺たちは紅玉の離宮の門をくぐったのである。




「俺の客人だ丁重にもてなしてくれ」


そういってガウェイは少し着替えてくると言い置いて俺たちを侍従へ預けた。
それはいいんだが、通された北の間の豪奢な部屋にレガンとフルレトが"初めての部屋で怯えるネコ並"にウロウロとし始めたのにオレはちょっと困った。
ちなみに侍従は俺たちを通して世話をしようとしてくれたのだがレガンとフルレトが三人だけでちょっと話したいことがあるからと追い出されていた。
戸惑っていたので可哀相だ。
最初、俺も三人だけで話すこともあるだろうと思ってたんだが、レガンとフルレトは獣人らしく『此処がある程度、安全だ』と思えないと落ち着けないらしい、ホント獣人って面白い。

魔法で隠してる尻尾と耳があったらきっと面白かっただろうに…残念だ。

「楽にしたら?」

フードを取って衣装箪笥の中へ入れながらオレはブーツも脱いでスリッパにして椅子にかける。
ちなみにレガンとフルレトは未だにフル装備です、お前等落ち着けと言いたいが、言っても変わらない気がするので止めた。
オレはそのまま椅子の隣りの机に置かれていた菓子と茶に手を伸ばす…あれだよね旅行先の部屋で最初に食べるよね。


「紅茶美味しい」


俺が紅茶飲んだら匂いに釣られたのだろうか、やっとレガンとフルレトも荷物をおいて椅子に座ってくれました。






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