過去編3〜6『炎の騎士』2〜
行き交う人波の中でガウェイが歩めば人々は道をあけるが、
「寄ってかないかぃ!旦那っ!」「毎日ご苦労さん」など声がかけられて彼の人気が窺えた。
それらにガウェイも「また今度、寄らせてもらうっ」「あんたもなっ」と気軽に返していて好ましかった。
俺とフルレトはそんなガウェイの後ろを付いていく、そんな中、フルレトは屈んでオレに話しかけてきた。
「俺はやっぱり反対です、危険だ」
元々行き交う人が多すぎるから小声のフルレトの声はオレにしか聞こえない。
彼の"獣人"としての反応はごく普通のものだが、本当に奴隷オークションに備えてお金を貯めたいなら…ガウェイの屋敷に招かれるのは幸運なのだ。ガウェイは下の者に対して面倒見が良いし、真っ直ぐな気性だから一度助けると決めた者を見捨てたりはしない。
…それにガウェイと獣人のレガンとフルレトが縁を持つのは今後の為にも良いことだと思うのだ。
なぜなら、ガウェイはこの聖都のみならず、聖王旗下軍隊の最高顧問なのだから。
宮廷魔導師や錬金術師や司祭といった特別な役職の者たちへも戦の協力を取り付けることが出来る上に、戦に必要な兵糧などの管理もガウェイは滞りなく行える。
勿論、将軍として指揮をとれば一流であり、騎士としては、もはや伝説の域だ。
そんな彼に縁を持てば、何かあった時に"獣人"のために彼が動いてくれる可能性が増すと思うのだ。
ガウェイは奴隷や隷属といった相手の自由を踏みにじる行為を毛嫌いしている、彼の気性に合わないのだろう。
だから、もしも彼が獣人が困ってると知ったら…きっと動いてくれるだろうと思うのだ。
それに長く共に苦節を共にした分、他の騎士よりガウェイはオレの中で特別だから。
…つい庇う様に口を開いていた。
「宿代が浮く分、明日が助かるだろ?それに…知り合いなんだ。」
フルレトに以前から知り合いと匂わせつつ返事をすると、彼もハッと気づいたようにして黙る。
まるで今気付いたというような感じだったが、オレはそんなにも獣人たちの中に馴染んでいたのだろうか。
…一応、攫われた人間なんだが。
俺はそっと見慣れた"オレに忠誠を捧げた騎士"の姿を見やる…本当なら彼の隣りの方がオレの本来の場所なんだ。そう思うと、今の状態は心配かけてるよなぁと申し訳なくなる。
討伐戦の夜以来だから久しぶりな気がする。先程見た顔は上手く隠してはいたが疲れていた気がする。
俺だけこうして側にいて、姿を見て安心してるのは申し訳ないな。
今はガウェイの後ろ姿しか見えない。
けれど太陽の光を浴びて、彼の髪が朱金に染まっている虹彩はとても綺麗だ、後ろ姿で彼の紅の長衣の裾が翻る。ぶっきらぼうでも優しい彼は俺たちに不用意に話しかけてこない…きっと何か俺たちの中で折り合いが出来て話しかけてくるまで待っているのだろう。
…俺は不器用なガウェイについ微笑んでいた。
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