食堂へ

6月の汗ばむ陽気。その日に季節外れの転入生は、この学園へ現れた…そしてその転入生の学園案内に向かった生徒会副会長・田辺怜人が機嫌良く生徒会室に戻ってきたのが、他の生徒会役員の目を引き、あれよと言う間に昼食に食堂で、その転入生を見に行く算段となった。

蒼璽は内心めんどくせぇなと思いながらも生徒会室を役員たちと出て、食堂へ向かう。
食堂に行くのは彼にとって面倒だった、周りの生徒たちの視線が煩わしい。
まぁいいか緋酉も来るだろうしな…そこで彼は不機嫌だった顔にようやく笑みを浮かべた。

緋酉の携帯が鳴ったのは丁度、月宮が笑みを浮かべたのと同時刻だった。
彼の携帯にはメールが一通届いており、それには『生徒会役員の方々全員が食堂へ向かわれました。』という簡素なだが重大な内容が記されていた。

緋酉はすぐに判断すると授業の終わりの方ではあったが立ち上がる。そして集まる視線に、

「申し訳ありません。親衛隊総代として対処せねばならないことが発生したので、授業を公欠します。」

と答えて颯爽と教室を後にした。残されたクラスメイトたちは幾分眩しげに彼を見送り、先生も残りは数分だからな今日はここまでにしとこうかと言って切り上げた。
その直後に、授業を終えるチャイムが流れ、いっせいに生徒たちは昼食へと動き出した。

そして緋酉といえば昼食へ廊下に出てきた生徒とすれ違いながら、幾分足早に歩き、メールを作成し一斉送信した。
『生徒会親衛隊長は全員食堂へ』
そう彼は総代として…学校に存在する親衛隊全てを統括する立場にあった。



もうすでに食堂は授業が終わった生徒でごったがえしていた。
生徒会メンバーは来ていないと緋酉は息を吐いて、そのまま学食の扉の前に佇む。
すると後から来た生徒は彼の姿を見つけると会釈や挨拶を返し、彼が居るだけで学食内は幾分ざわめきがおさまった。
生徒会の時のように一般生徒は騒いだりはしないが、緋酉が凛と佇む姿を眩しげに見つめる彼等の瞳にはやはり憧憬などといった感情が見て取れる。
本来、緋酉は学食で食事をとらない、自分の影響力を自覚しているからだ。
抱かれたいランキングでは4位で本来なら生徒会・風紀入りだったのに会長親衛隊に入ってたから、それは立ち消えたが…人気は未だに健在なのだ。

緋酉が学食の出口に佇んでいるということは、それは『生徒会』関連だと一般生徒たちは分かっている。
だからきっとこの後に『生徒会』のメンバーそれも会長が来るのだ。
その前に男前な緋酉を生徒たちは眺めて『やっぱり格好いいなぁ』と溜息を零すのだ。



その時だった…廊下の曲がり角から『生徒会メンバー』が現れたのは。
そして彼等は悠然と緋酉の前に佇んだ。

親衛隊総代と生徒会役員の遭遇に食堂にいた生徒たちは固唾をのんで見守る。
知らず、場が静まる中で、緋酉は口をひらいた。

「もう既に全親衛隊には通達しておりますが、
…皆さんが一堂に食堂に会するときは要らぬ混乱を避けるために俺に連絡をください。」

凛と隙なく告げる有能な自身の親衛隊長を睥睨して蒼璽は揶揄するように嗤う。

「俺たちが言わなくても、今ここにいるんだから…必要ねぇだろう。
マジで親衛隊はストーカーかよ、キメェな。」

そんな冷徹な視線に胸に痛みを覚えながらも緋酉は嗤ってみせた。
このぐらいの言葉は耐えて、顔芸ぐらいできなければ親衛隊総代の地位は務まらない。

「貴方はストーカーする程、魅力的じゃないでしょう?」

凄絶に笑う緋酉に蒼璽はチッと舌打ちをこぼす。
これを言ったのが他の人間なら何とも思わないだろうが、自分を好きでもないと公言して憚らない緋酉 慎であるから、蒼璽も認めざるをえない…だが胸には苛立ちが溢れた。

他の生徒会メンバーなどは言葉もなく、二人の舌戦を見ていたが生徒会長である蒼璽を置いて、そそくさと食堂へ入っていった。
この二人は互いに有能な分だけ、他の人間が割って入ると、その人間に二人の矛先が向いて被害を被るのだ…放っておくに限る。なかでも副会長の田辺怜人には、自分が気に入った転入生にあわよくば会長を会わせないで済むかもしれないという打算的な考えもあった。



他の生徒会メンバーが自分を放って食堂へ入っていくのは分かっていた、分かっていたが蒼璽は目の前の緋酉とまだ相対していたかった。


緋酉は蒼璽を好きではないというが、彼の持つ力を注いで蒼璽の周りの環境を整える。

…この男はオレのための者なのだ。

自分が認めている男と血が滾る様に言葉をぶつける…それはとても蒼璽にとっては高揚する時間だった、思わず獰猛に笑う程に。



会長がオレを瞳に映して笑う。
捕食者のように獰猛に…ひどく男らしいそれに俺の胸はドクッと脈打つ。

「オレが魅力的じゃない?何を言ってる、この学園の生徒会長だぞ。」

見てみろと言わんばかりに両手を広げた。
彼はそして一歩オレに近付く、戯れに餌をなぶるように、猛禽の翼のように、扉と会長の腕に俺は囲われる。
両手が顔の横について益々近くなった距離…会長の香りがして目眩がしそうだ。

「貴方も自信過剰だ。」

自分を取り繕って、そう返すのがオレの精一杯だった。
好きな人がこんな風に側に来れば冷静などいれない…クツッと会長が嗤う。

「自信過剰かどうか試してみるか?緋酉…」

上から覗き込む様に囁かれる。
玲瓏な声で誘惑するように会長は嗤う…こんな人に逆らえるわけが無い、
そう俺は息を喘ぐように吸った時、

「怜人っ!!お前っなんでここにっ!」

と副会長を呼ぶ大声が食堂に響いて…会長の意識は俺から削がれたようだった。
…それに胸が切なく痛んだ。
会長に気の無いふりをして、けれど気持ちはフッとした瞬間に滲み出て…オレを苦しませる。

オレをもう見ていない横顔を盗み見て、思い知らされるのだ…貴方が好きだと。





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