すれ違い

暫らく時間がたって、あの子が屋上から去って、会長と俺の二人きりなったので、貯水タンクの影から俺は現れた。
途端に会長は不機嫌な顔になる。

「また、テメェかよ・・・いちいち張り付きやがって、ウゼェ」

不愉快そうに歪められた顔を、見たくない。
本当は笑って抱きしめて欲しい、俺にだけ。
でもそれは無理だと諦めてる。
だから俺は冷静に唇に冷笑を浮かべて見せた。

「これも仕事なんです、俺の仕事が楽になるように、もう少し大人しくしてて下さい。
貴方はあの生徒を学校からいられなくしたいんですか?」

冷徹な声を出してみせる。
不機嫌な表情をつくってみせる。
仮面を厚く厚くかぶって、貴方の前に出る。

お願いだから、これ以上・・・他の人間を抱かないで欲しい。
無関心なフリをする、貴方に無関心なフリを。
俺は貴方が好きです、とは言えない。

手を握り締めて、俺は会長に向けて笑って見せた。
完璧な笑みだったと思う。

「俺は会長のそういうところが大嫌いです。」

ゆっくりと見開かれる会長の切れ長の瞳。
そして一瞬の後に盛大な舌打ちが聞こえた。

「てめぇが俺の隊長職を完璧にしてなければ、すぐに降ろしてやるのになっ」


ごめんなさい


心のうちだけしか言えない謝罪の言葉。

好きで堪らなくて、嫉妬して、崩れ落ちそうでっ…八つ当たりだ、こういうふうに耐え切れなって気持ちが乱れるから、会長に疎まれるのに。
貴方の側にいることを望んだのは自分なのに、辛くて・・・八つ当たりしてしまう。

すると俺の言葉に会長はスゥッと冷淡に瞳を細めた。

「安心しろ、俺はお前が目障りだし嫌いだ。」

声音でそれが本気だと伝わる。
胸が痛い。

そして俺の横を通り過ぎ、屋上のドアに向かう。
ギイッと音を立ててドアが開く音、閉まる音が響いて。
会長は立ち去ったのである。

俺が耐えられたのは、其処までで足が震えて、自分の体を抱きしめた。







ああ、むかつくっ!

月宮は足音高く廊下を歩いていた、周囲から『会長様だ!』と湧いた声が聞こえるのも煩わしくて、更に心がざわつく。
昔ならここで適当な奴を見繕って生徒会室の仮眠室でイタしたりしたんだが、緋酉の顔を思い浮かべると、そんな気も失せる。

自分が認めている男にコケにされるのは腹が立つのだ。

幼稚園から大学まで男子校であるこの学園には、ゲイやバイが9割を占めている。
そんな中で学園の権力者を決めるのが、抱きたい・抱かれたいランキングなるものだ。
生徒会はその結果を元に選出される。

俺は抱かれたいランキング1位の生徒会長さま。

だがやはり、それとは別に有名な人間は何人かいる。
42代親衛隊総代・緋酉 慎はまさしくその内の一人だろう。

奴は俺の親衛隊長であり、同時に親衛隊の総代でもある。
冷静沈着で真面目、有能な、その男は日本人らしいストイックな雰囲気の男前で抱かれたいランキングでは4位だった。
本来なら生徒会入り、風紀入りするのが当然の順位だったが、奴が高校一年のときから俺の親衛隊に入っていたため、生徒会・風紀入りは立ち消えた。

惜しむ声をあざ笑うように、緋酉はアッサリと奴が総代に着く前に荒れていた親衛隊を掌握した。
その手腕は俺であっても流石としか云い様がない。

俺の親衛隊には俺でなく緋酉を慕って集う者も多い。
緋酉は俺の親衛隊長でありながら、俺を過度に敬う事無く、意見を言い合う。
俺たちは対等な関係だった。

その均衡が崩れたのは、時季外れの転校生がウチの学校に現れたためだ。







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