過去編3〜5『奴隷解放』〜

落札者である俺たちは肥えた奴隷商から舞台裏に招かれ豪奢な部屋へと通された。
その間も「いやぁ旦那様方のように大量に購入される方々は始めてございます」などと媚びを売ってくるので嫌悪感が増した。特に俺の容姿を見た途端の奴隷商人の絡みつくような視線が厭わしかった。
金髪に碧眼のアーサー王の容姿だ、奴隷になったとすれば高く売れると値踏みされているのだろう。
そんな奴隷商人に対して、そういった視線に敏感な獣人としてのサガかレガンとフルレトが冷徹に見ていた。
まぁ俺は気にしてない。

そして金と朱でつくられた悪趣味な部屋で奴隷引き渡しの書類を提示される。
それに必要事項を記入して、支払いとなった。

 レガンは黒の麻袋に小分けして金を入れてきていて、フルレトと半分に分けて持っていたので机の上にそのままゴトゴトと置いていく。
 俺はというと右の人さし指に嵌めているプレイヤーアイテム『財ある指輪』によって、ゲーム内ではこれをかざすことで支払いができる。勿論プレイヤー本人が使用しないとお金は使えないので、この指輪を奪うような輩はいないし、抜けない。
奴隷商人はお金を引き落とすICカードリーダーのような機械をゴトッと机の上に置く、それに指をかざすとピッと電子音がしてお金が支払われた。

「ではこちらが奴隷たちの『奴隷の首輪』の主を示す腕輪でございます。」

そして支払いが終わると、奴隷商は銀色の腕輪を俺とレガンの前に置く。これの腕輪に奴隷人数分の生体データが組み込まれ、この腕輪を持つだけで『奴隷』を思いのままに出来る代物だ。
オレがレガンにつけられた『隷属の首輪』より『奴隷の首輪』は結構えぐかったりする。なにせ死を命じられれば『奴隷』の場合は躰が勝手に動いて死んでしまうのだ。
もちろんそれをプレイヤーに行うことは運営ストップがかかって出来ないし、キャラクターに対してだってペナルティが多大にくる。ただ性交渉のあれこれを『奴隷』に命じるプレイヤーは結構いる…だから今日一日に出品された獣人すべてを俺たちで買えたのは本当に幸運だったのだ。

「また御贔屓に明日、明後日も獣人の女子供など取り扱っておりますので。」

そういって奴隷商は俺たちに媚びるように笑みを浮かべると、では奴隷は表で引き渡しますと言って立ち上がった。そのまま部屋を出て、暫く薄暗い板張りの廊下を歩く。奴隷商人が持つランタンが薄暗がりを照らす。
暫くすると突き当りにぶち当たったので左折すると石造りの螺旋階段が備え付けられていて俺たちは其処を登っていく。

螺旋階段はいよいよ暗い…けれど付いて行くことしか出来ない。

そして一番上まで来ると、其処は板のドアが平らに貼られていた。奴隷商人はそのドアを押し上げるとサァッと陽光が一気に螺旋階段を照らす。
目をまたたいて光に慣らしながら階段を登り切ると、其処は地上だった。
どうやら俺たちが下りて行った居酒屋の裏手の地面に造られた秘密の抜け道らしい。

「では私は此処まででございます、どうぞ居酒屋前にて奴隷をお受け取りください。」

そのまま奴隷商はパタンと木のドアを閉じた。
よく見ると木のドアの上には草が貼り付けられカモフラージュされている。近くで注意してみなければ此処にドアがあると気付かないだろう。

だから俺は其処を目に焼き付けて誓う、絶対に此処はぶっ潰す!!

*****

獣人の奴隷達は『奴隷の首輪』を隠された小奇麗な服を着せられて、地上で『主』である俺たちを待っていたが一様に不安な顔をしていたが…彼等がレガンとフルレトを見つけた時の瞳の輝きは、それはそれは歓喜に溢れていて言葉にできなかった。
今は姿変えの魔法で人間になっているが、獣耳と尻尾が消えただけで彼等は基本彼等の容姿のままだからだ。
だが仲間と気取られないよう彼等は互いに気安く言葉をかけずに、レガンは平坦な声で「こっちに付いて来い」とだけ命じる。それがどれだけの感情を抑え込んでいるか分からないけれど、少し彼の声は震えていた。
仲間に『命じる』ことも彼にとっては苦痛だろう。

71人の奴隷と俺たち入れて74人で移動し始める。

その大人数だから気付かなかった、酒場の二階の窓辺から俺たちを見下ろす視線に。
「奴隷を買いしめなど…目障りだなっ」
俺は全然気づかなかった。

だが移動自体はスムーズで。
裏路地は勿論のこと活気ある聖都ヒュンベリオンの表通りもなんなく過ぎていき無事に脱出経路を確保していた獣人の若者たちに彼女たちを託すことが出来た。
その前にレガンと俺は『奴隷の主』の腕輪を放棄する言霊を唱える。

「我、人の身と心を支配し者…その支配する者の全てを今この時をもって解放する。」

その途端、主の腕輪は光となって蒸発した。
そして今度こそ解放された彼等の仲間たちは聖都正門の端に位置する行商人用発着場に用意されていた荷馬車などに乗り込み、馬を扱えるものは馬に乗り武装し、手早く彼等の住処へ帰る準備をしていく。
俺も怪我をしてる人たちに回復魔法を唱えたりして過ごしていると、虎耳の女の子に声をかけられた。
「あの助けて下さり有難うございました。」
彼女の後ろにはフルレトも控えている。
それで俺はフルレトの妹のルルカちゃんをこの時初めて正面から間近で見たのだった。

ピコピコ動く虎耳の気の強そうな美少女美味しっ!!!!とか叫ぶと後ろのフルレトに殺されそうである。
俺はなるべく優しく微笑む。女の子は大事に、これ男としては鉄則。

「貴方も他の方も無事で良かった。私は何もしてないですよ。」

すると俺の笑みにブワッとルルカちゃんが涙を零す。

「いいえっいいえっ兄が教えてくれましたっ貴方は私の恩人ですっ心から感謝していますっ」

そのままグイッと手で涙をぬぐうルルカちゃんに俺はそっとその手を掴んだ。

「あまり擦ると赤く腫れるから…これ使って下さい」

そして差し出したのは何所にでもあるようなハンカチだったがルルカちゃんは嬉しそうにはにかんで笑った。
なんだこの生き物っ!可愛いんだぞ!!とが叫ぶと後ろのフルレトに殺されそうである。

「無事に集落までたどり着いて下さい。」

そして彼女は一度、ぺこりっと元気に頭を下げると出発する仲間の方へと走っていった。
「さようなら!また会いましょう!」
そして奴隷だった獣人たちは出発した。
レガンは途中まで彼等を送るらしいので俺はフルレトと二人で今夜泊まる宿を探すことになった。

 それにしてもルルカちゃん爽やかです、可愛いし、美人だし性格も良さげだし、もう完璧な女の子じゃん!!と思っていたら。俺の隣りで一緒に仲間を見送っていたフルレトに「なぁ」と声をかけられた、おおぅビックリした。
視線を向けると彼は少し視線を泳がせてから「有難う、妹を助けてくれて。」と言ってくれた。
俺は笑う、いいのになぁって思う。
だってこれってオレがこの場所を治めきれなかったから治安が下がって奴隷商人が現れた訳だしさ。

「礼には及ばない…フルレトは聖王、陛下が奴隷売買を禁止していることは知っているか?」

自分に陛下付けるのはこぞばいが仕方ない、フルレトは俺の問いに首を振った。

「いや、俺等が此処に流れて来たのは最近なんだ」
「そうか…聖都に奴隷売買が行われ悲しみが広がることを聖王はよしとしていない。
・・・だからオレが奴隷売買を絶つことは当然なんだ。」
だって俺は聖王だから。でもフルレトは当然ながら違う意味にとったらしい。
「お前は本当に聖王に忠誠を誓っているんだな。」
そういう訳じゃないんだけど言葉に詰まって無言でいたら、それを肯定と取ったらしいフルレトは幾分躊躇った後に口をひらいた。
「俺はお前が…俺たちとずっと一緒に居たら良いと思ってる。」
えっ?俺は思わずフルレトを見上げるとフルレトは苦しそうに俺を見下ろしていた。
彼の長身で出来た影が俺に落ちている。
「…妹はアイツは、もう唯一の家族になってしまった。」
俺は瞳を見開く。
「この前の奴隷商人の襲撃で母が殺された」
フルレトは泣きそうに、けれど泣かないで必死に言葉を紡いでゆく。
「俺たちは虎の獣人の集落に元々はいたんだ、俺はそこでは集落を束ねる親父と一緒に村を束ねる仕事を手伝ってた…でも俺の故郷はっ、集落は…人に襲われて親父はそこで殺された。」
声が震えだす彼の姿に、過去が彼を深く傷つけているのが分かった。
「俺は皆を守ろうと勇敢に戦おうとしたのに…集落の皆が俺と妹と母を逃がしたんだ。」
そこでフルレトは己の拳を見つめる。
「若と呼ばれてた…虎の血を絶やさないために託されたものがあるのに…
俺は自分を生んでくれた母も守れなかった。今度妹を失くしたら俺は、俺が許せなかった。」
そこで耐え切れずにフルレトの赤茶の瞳から涙が溢れる。

「…ありがとうっ!俺が人の全てを憎悪ぜずに済んだのはアンタのお陰なんだ。」

そのまま逞しい腕の中に掻き抱かれる。
この虎の青年がそんな過去を抱えていることは知らなかった、俺はクシャリッと彼の赤茶の髪を撫でる。

「俺もありがとう・・・人を全て憎まずにいてくれて、アンタは強いよ。」

フルレトの俺を抱きしめる腕が強くなるけれど、俺はそれを咎めなかった。
零れる彼の涙、きっと妹の前だと耐えていたのだろう。

この時、俺は獣人である彼等が安全に暮らせる場所を…創りたいと思った。
それが後にストレイト皇国国境警備地という拠点創造へと繋がってゆくのだった。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -