過去編3〜3〜

その夜は、鹿肉のシチューや胡桃の甘煮とかをレガンが手早く作ってくれてお腹一杯になる。
するとレガンは明日には精鋭の数名を連れて聖都へ向かうと説明してきたので、俺たちは早々に大きな葉っぱとふかふかの毛皮で出来たベッドで眠った。ベッドが一つしかないのでレガンとも一緒だ。
昼間のこともあってすぐ側にレガンがいるのは気持ちが落ち着かないが…俺はすぐ寝ていた。

ログオフ。

そして翌朝、俺は『隷属の首輪』を隠すために白いストールを巻いて、マントを深めに被る。
白の絹で出来たどちらの衣も貴族が使うもので、銀糸で細かく刺繍されている。
『夜鷹の盗賊団』がぶんどったものらしいが俺にくれるそうだ。
そして仕上げとばかりに目くらましの魔法をかける。
いまの俺は黒髪に青い目の容姿とは打って変わって、金髪で緑眼の好青年に変わっている…ちなみにアーサー王の容姿をチョイスしてみた。
これはこれで人目を引くが…元の姿でウロウロするよりマシだろうと俺はタカをくくっていた。
伝説の王の姿などプレイヤー以外は誰も気にしないだろw

というのも今から聖都ヒュンベリオンに乗り込み、奴隷となっている獣人を解放するための下準備をするのだ、聖王のままだと潜入捜査に支障がきてしまう。

「おい準備できたか?」
そう考えていたところで、声がかかる…視線を入り口の方へ向けるとレガンがドアに手をかけて此方を覗いていた。それに俺は笑って頷く。彼はマントを深く被った俺の容姿の変化に気付いていないようだった。
「今いく」
「あれなんかお前…声…」
そう「姿変えの魔法」は容姿に合わせて声も変化するのだ、俺は陽光のもとに姿を晒す。
金色の髪がキラキラと黄金のように輝いて、緑の翡翠の瞳でレガンを映す。

「ちょっと姿を変えた…聖都で俺の知り合いに会ったら厄介だろう?」

そして微笑む。
精霊王にすら愛されたアーサー王の容姿はやり過ぎたかと思うが、こんな時でないと出来ないしな。
俺の微笑に、レガンは尻尾をビシッと固めて、おおぅとかなんか呻いていた…変な奴だ。

その後に、聖都へ向かう一向に同じように姿変えの魔法を使ってあげたら驚いた顔をされた。
確かに姿変えの魔法は『賢者』職業の上位スキルだけどw
俺には無詠唱でするなんてことは簡単なことだ。

それに、獣人の皆が耳隠すために帽子かぶってるからw
『僕たちは獣人の一行です!どうぞ捕まえてくださいっ!!』って言ってるのと一緒だと思った次第であります。

周囲から羨望の眼差しを受けていることに気付かずに俺は淡々と出発の準備を進め。
それが更に好感を高めていた。

*****

出発の時間が来た。
レガンは自身の乗騎である、シルバーウルフに「シュザー」を乗せると自分も彼を抱えるように跨った。

「シュザー」と名乗った聖王旗下の将軍は、変な奴で。
『隷属の首輪』をつけられたのにレガンを厭わなかったし、社会的に下に見られる獣人を蔑んだりしなかった。それに…とレガンは腕に抱えている人間をギュッと抱き寄せる。
「なんだ?」
途端に返ってくる声が心地いい。
「危ないから俺にシッカリ掴まってろ。」
手綱を持つレガンの腕に重ねられる「シュザー」の手の温度が心地いいと思った。

そして…この人間は自分の命を削って俺たちの殺された親達の魂の浄化をしてくれたのだ。

なぜここまでしてくれるのだろうか?
それとも「伝説のアーサー王の魂の欠片」を持つに選ばれた人間は皆がこんな風に心が澄んでいるのだろうか。さっきも姿変えの魔法を仲間全員にかけてくれた。効果は一週間と言っていたが充分だ。

必ず、仲間を取り戻す。
そしてレガンの銀色の瞳がキラッと輝き、彼は檄を飛ばした。

「出発!!」
「おおおおお!!」

森を過ぎる風のように盗賊団は人目を避け、魔物も使わない獣道を駆け抜ける。

フッとその合間にレガンの鼻孔を腕に抱いた人の匂いがくすぐった。
スンッと思わず息を吸うと、好い匂いが強まり、思わず咽喉がグルゥッと鳴った。
こんな風に匂いで煽られるのはレガンにとっては始めての経験だった。

獣人はだいたい一目惚れでツガイを決めるが…
繁殖の適齢期に入っているレガンは未だツガイは決めていはいない…男からも女からも誘われたが、不思議とその気にならなかった。
ただひたすらに一族の安寧を求めて放浪した。

始まりは小さな村。
その小さな村はやがて魔物に襲われ、多くの者を喪い…村が焼かれ彼等は喰うに困って盗みをした。
そこからは犯罪者として追われながら、一人一人殺され、欠けながらも放浪し続けた。
生きるためには一箇所には留まれなかった。

彼ら以外の獣人たちも生きるために盗賊に落ちていたため、放浪した各地で出会い仲間が増えていった。
そんな彼等をエルフや人は『放浪の民』と蔑み、『奴隷狩り』の対象としてくる。
守るために強くならなければいけない。
やがて仲間が死なない程に強くなったと思っていたら、また狩られる。

安寧など遠かった。
ツガイを決めて子をもうけるのは長としての責務と思いながら…殺伐とした空気の中でどこかそれを諦めていたのに。
けれど今はレガンの中で心境の変化が起こっていた…彼はツガイを心のうちで決めたのだ。


・・・その者が決して自分一人のものになる事は無いのだと知らずに。





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