過去編3〜1『盗賊王クエスト 発生』〜

鳥の鳴き声がする。
視界を染めるような陽光に俺はゆっくりと意識を浮上させた。

そして目が覚めたら体の上に大きな大きな葉っぱが置いてありました。
なんですかトトロですか。
なんかお供えみたいに木の実が一杯脇に置いてあります。
なんですかトトロですか。

ハッとして俺は周囲を見渡す。
泥壁…どうやら地中に掘られた穴のなかで出入り口だけ陽光が射している…それは知識で持つ獣人の住処と酷似していた。ホビット庄みたいな住処はどこかメルヘンちっくで可愛いらしい。そして、なにやら毛皮や干し肉が天井から吊るされ。木で出来た家具等が置いてあって生活感が溢れているので俺はまじまじと部屋を観察してしまう。
俺は魔物を討伐していたはずなんだが…疑問に思って首を傾げた途端に、カチャリッと冷たい金属音が鳴った。その固い感触にアレッと首を撫でたら『隷属の首輪』が付いていた。
サァッと血の気が引いた、うん、この形状はまごう事なき『隷属の首輪』だ。

えっと…何故だ。

鉄でできた首輪とそれにくっ付いて鎖が何個か繋がりジャラッと音を鳴らす首輪。
『サーチ』しても結果は変わらず、まごうこと無き『隷属の首輪』と駄目押しするだけでした。
挙動不審になりながら何かの間違いで引っ掻かっているのではと、引っ張ったり外れないかと弄くったのだが外れない。
俺は草で出来た布団の中で遠い目をした…『奴隷の首輪』よりはマシだけど、これは首輪を付けた『主人』の命令を全て聞かなければならない。『聖王』が『隷属の首輪』かけられたとか、どんな笑い話だ。
初心者はチュートリアルで一回『隷属の首輪』を購入した奴隷につけるっていうのやるから、だれでもこのアイテムは知っている。まぁ『主人』より『隷属』相手がレベルが高い場合は魔法を少し使えば外れる仕様になってるから俺は心の底からは慌ててはいなかった。

…ただ精神的にダメージはデカい。

基本的にこれは暗黙の了解でプレイヤーには使用しないもんなんだが、まぁ悪名高い死神同盟の奴等は嬉々としてプレイヤーに使ったりしてる、奴らは例外です。

そうこうしているうちに、地上に繋がる木の扉がギィッと傾いで開かれる。
柔らかい陽光が扉の隙間から入り込んで、その陽光に照らされて青年が一人入ってきた。
灰色の髪から同色の獣耳をつけた獣人だった。
光を浴びて銀色にも見える髪は綺麗だと思ったが俺はその彼に『隷属の主』の腕輪を見つけ、瞳を見開く。
肉食獣特有のしなやかな動き、見えるふさふさの尻尾は狼のもので眼光鋭く細い瞳孔は金色。
その瞳の持つ鋭さのまま佇んでいる彼には隙が見当たらない。

そして、そのまま俺に近付いてベッドの側に敷いてあった毛皮の上に、ドガッとあぐらで腰をおろした。

「目が覚めたか。気分悪いとか痛いところはあるか?」

男らしい手が俺の額に伸びる。その太い腕には今までの戦いを物語る様に大きな傷跡が付いていて、オレは思わず、その手から逃げるように体を引いてしまった。
だってコイツが俺に『隷属の首輪』をつけたのは対となる『主』の腕輪をしているから、その通りだと思うし、注意するなら注意しとくべきだろ。
彼はその金色の瞳を僅かばかり見開いて…熱を確かめようと伸ばされたであろう手は俺に触れる手前で逡巡したあと離れていった…痛い程の沈黙が落ちる。

すると獣人の青年がガシガシと頭を掻いて、
「なぁアンタ、夜鷹の盗賊団って知ってるか?」
と尋ねてきた。彼が言ったのは獣人だけの凄腕の盗賊団だ。
束ねるのは『銀灰狼・盗賊王』という二つ名の『ジュレガン』。
まだオレは会ったことは無い。というのも俺の領地は『治安数値』が良いから今まで討伐が難しいハイレベルな『盗賊』が出現したことが無いのだ。
けれど「知っている」と言って頷けば。彼はニッと悪童のように嗤った、獣耳がピンッと立ちあがる。

「俺たちが夜鷹の盗賊団だ」

一瞬、オレは呆け、思わずステータス画面を開いて確認すると…オレの領地の『治安数値』が下がっているぅ!!くそっ『施し』して民心上げたから…つい気を抜いてしまっていた。
…そうだよ。
魔王さまが『戯れ』に放浪しているから今は何処も彼処も、のきなみ『治安』下がっているんだった!!
オレが固まっているのをどう思ったのか、彼は言葉を続ける。

「オマエはオレが攫ったんだ…オマエはオレのものだ。隷属の首輪もつけたしな。」

そしてまた太い腕が俺に伸びてきて、俺はまた後ろに下がろうとしたが。
『「下がるな、オレの手を受け入れろ。」』
命じられ躰の動きが止まり、俺は『主』である彼の手を受け入れていた、さらりっと髪を掻き上げるように顔を撫ぜられる。
「いや困る…俺は。」
…いや待て待て。この状況で身分を明かすのは、なんとなく不味いということだけは分かる。
オレの戸惑いを感じたのだろう、彼は獣耳をピクッと揺らして笑った。

「知ってるアーサー王の魂の欠片を持ってるんだろ?討伐見てたぜ。だからアンタに決めたんだ。」

そして彼はグッと体を近づけて、俺はそのまま腕の中に抱きこまれた。腰に太い腕を回されて逃げ出せる気がしない。そのまま額を合わせるように上から覗き込まれる。いやいや距離近くないっ!?
グルルッと目の前の青年の咽喉が鳴った…狼のそれなんですけど、どうしよう。
いや威嚇する感じじゃないから良いんでしょうか?いや良くないよ、全然良くないよ。
青年の金色の瞳、瞳孔が肉食獣のそれだ…この圧倒的な存在感。
「なんかお前…いいな。」
うおぅ『聖王称号』の好感度MAXオプション入りました!!いや今は入らなくていいのに!!

ああ、ここまで来たら正体バレテそうだ…いやバレテルダロ。
名乗る前に正体バレてるってドンダケ〜とおどけてみても状況は変わりませぬ。

だってストレイト皇国でアーサー王の魂の欠片を持っている有名人は…まずダントツで俺自身なのだから。
でも一応、足掻いてみる。
「どういうことだ」
すっとぼけた俺に彼はゆるりっと嗤う、そしておもむろに立ち上がった。
「実際に見せた方が早いから、一緒に来い」
彼はオレの腕を取り、立ち上がった。
*****
過ごしやすかった穴の住処を出ると、住居があったのは森の奥まった一角だったのだと分かった。
あちらこちらに住居らしきものや、獣人がちらほら見える。
だが何故か若い男しかいない、此処はかれらの住居である筈なのに女子供や老いた獣人がいない。
そのことに疑問におもいつつ、青年の後につづく。

灰色のフサフサの尻尾が揺れるのを見ながら、森は段々と奥まっていった。
そして青年はおもむろに立ち止まり、一角を指し示した。
「此処だ」
木々が切り倒された拓けた場所。
そこには何十、何百と白い墓標が直ぐに立っていた。俺は驚きで何も言うことは出来なかった。
なにより盛られた土がみな新しいことがわかってしまった。
これは…此処は、この場所は。

「…此処に俺たちの親がみんな眠ってる。」

静かな声だった。
それでいて込み上げる感情を必死に抑えているような声だった。

思わず、彼が泣いているのかと振り返る。
彼は泣いてはいなかった、だが切なそうに眉を寄せて手を握り締めている姿から、彼が悲哀に耐えているのはよく分かった。森を過ぎる風が木々を揺らして、まるで海のように鳴る。
それを子守唄に魂は眠る、この森の奥で。

どのくらいの時間が経ったのか、彼はさらに言葉を紡いだ。
「あんた偉い将軍だろ?俺たちを助けてくれないか」
将軍?彼の言いざまに少し疑問が湧く、もしや正体バレテない?
「どういうことだ?」
ジュレガンは鳶色の瞳を辛そうに歪める。
「俺たちも迂闊だった。拠点を移して男どもは盗賊業で出張って、村には少しの見張りと女子供と年寄りしかいなかった…。」
俺はジュレガンの真剣な顔つきに彼等に起こった事を察する。
「奴隷商人に嗅ぎつけられて、年寄りは全員虐殺、見張りの若い男も女子供全員攫われ、奴隷として連れて行かれた…聖都・ヒュンベリオンに。」
俺はなにも言うことは出来なかった。
俺は奴隷売買を禁止にしているが、治安が下がって暗躍する輩が現れたのだろう…そして彼等は被害者だ。

『獣人は奴隷として高値で取引される』というのは、この世界での常識で、エルフほど尊敬を集めるわけでもない、人のように数が多い訳でもない、魔族のように圧倒的な力を持っている訳でもない。
獣人は低位にみられがちで彼等は奴隷商人の狩りの対象になりがちで、だからこそ…彼等は群れる。
盗賊団というのも、おそらく始まりはただの獣人の集落からだった筈だ。
『聖痕のアヴァロン』での設定でも大抵の獣人の放浪集団は『集落』からの発生とあったしな。

これってさ見捨てらんねぇよ…俺の領地でのことだし。
俺はフッと詰めていた息を吐きだす。

「分かった、オレはお前に手を貸す…俺自身の意志で。」

金色の瞳を見つめながら言うと、俺の言葉に彼は灰色の耳をピンッとたてて嬉しそうに破顔した。

「おう!まぁ嫌っていっても手伝って貰おうって思ってたけどな!
オマエはオレのもんだし!!」

いやそこは違うと言いたい。

「オレの名前はジュ・レガン。レガンって呼べ!オマエの名前は?」

おおっあの有名な『銀灰狼・盗賊王のジュレガン』だったのかよ!!
SSレアの欄に名前あったけど会った事なかったから気付かなかった!確かに狼だわ!!
ぶんぶん振ってる尻尾に視線を奪われながらも、俺は…
「シュ、シュザーだ」
釜をかけることを忘れなかった!!
流石に自分から「聖王です」と名乗る程、アホではない。
果たして俺の正体はバレテいるのだろうか…とレガンはへぇっと言っただけでした。

「シュザー、よろしく!」

あっよかった正体バレテないみたいです。



『特別クエスト:盗賊王の依頼 発生』







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