過去編2〜『災厄の魔王、戯れ』攻略中〜

『魔王の友人』イベントは大変人気があったのは良いことだが、このイベントの本丸である『災厄の魔王、戯れ』は領地もちには中々辛いイベントだった。
というのも魔王さまが『戯れ』に、あちらこちら放浪することで魔物や魔族が活発になり街道を中心に人的被害が拡大した。そこから冒険者が引っ張りだこで慢性的に人手不足。
城の騎士たちは討伐隊を組むものの、護衛とは違い討伐だからこそ被害が馬鹿にならず。
城下の治安も悪化してゆく…というスパイラルに入ったからなのだwww

*****

俺は執務室で書類を前に溜息を零すと、青を基調とした鎧に身に包み金髪を陽光に照らされたヴェルスレムが如何しますかと尋ねてくる。
本当に騎士の中の騎士っていう美丈夫だ。
さらには流石、俺の右腕を務めているだけあって、その凛とした佇まいが俺は好きだ。

「国庫を惜しみなく開けよ、貧民にもすべからく物資が行きわたるよう『施し』を行い民心を整える。
あと冒険者ギルドに掛け合い『市場』における薬の値段を下げ、彼等には踏ん張ってもらう。
その後、私が『討伐隊』の指揮をとり、根源を断ち切らねばなるまい…討伐隊は今夜発つ。」

そのまま立ち上がり、俺は白絹のマントを翻し、執務室の窓から城下を見下ろした。
「御意」
ヴェルスレムの声は、打てば響くように俺の耳に届いた。
「陛下、宜しければ陛下が自らお出でになられなくとも…」
だから俺にそう進言することも分かっていた。
だからこそ。
「お前なら言わずとも私の考えは分かるだろう、ヴェルスレム。」
そして俺は肩越しに振り返って微笑んだ。
ヴェルスレムは眩しそうに薄紅の瞳を細めて俺に恭しく拝礼した。

*****

最近、魔物や魔族が活発になり街道を中心に人的被害が拡大している。
この聖都・ヒュンベリオンの周りですらそうなのだから、他国や小さい町や村の被害は甚大であろうと思う。
ゆえに冒険者が引っ張りだこで慢性的に人手不足なうえ、城の騎士たちは討伐隊を組み出撃するものの活性化された魔物に手こずり重傷者が出る始末だ。
幸いなことに聖王陛下が適切な隊を編成して下さる御蔭で死者は出ていないが、城の兵士が手一杯なのを感じてか城下の治安も悪化しているという報告も上がってきた。

いよいよ次の一手を打たなければと陛下の執務室を尋ね、今後の対策を聞いてみる。
陛下でも流石に頭が痛いのだろう、執務室で書類を前に溜息を零している。
サラリッと流れる漆黒の髪に陽光があたって天使の輪が出来てる、空色の瞳は理知的でいつもながら息を飲むほどに男らしく、それでいて心が騒ぐ。
そして陛下は俺にいった。

「国庫を惜しみなく開けよ、貧民にもすべからく物資が行きわたるよう『施し』を行い民心を整える。
あと冒険者ギルドに掛け合い『市場』における薬の値段を下げ、彼等には踏ん張ってもらう。
その後、私が『討伐隊』の指揮をとり、根源を断ち切らねばなるまい…討伐隊は今夜発つ。」

さらさらと淀みなく答えた陛下、その余りの手際の良さに俺は内心舌を巻きながら陛下を見つめる。
陛下は、そのまま立ち上がり、白絹のマントを翻し、執務室の窓から城下を見下ろされる。胸が詰まる程の光景だった。

ランスロットの魂の欠片がドクンッと騒ぐ…こうやって側に居たかった。

御意と返事をして、だが進言しなければならないことはある。

「陛下、宜しければ陛下が自らお出でになられなくとも…」

俺の唯一の聖王。
貴方が危険な場所へ赴くのは俺の中では受け入れがたいことなのだ。だが同時に、

「お前なら言わずとも私の考えは分かるだろう、ヴェルスレム。」

この御方が一人、後方で安穏と過ごされる方でないことも分かっている。
そういうところも堪らず俺を惹き付ける、この御方の魅力なのだから。
肩越しに振り返って微笑んでいる陛下は自分の魅力も分かっているのだろうと思う。
眩しすぎる、幸福すぎる…この一瞬。
陛下のその姿を、俺は瞳に焼き付けるように細め…拝礼したのだ、自分の唯一の主に。

*****

月が、いやに明るい、その夜、地からは馬を駆り、空からは飛竜を用いて機動力を重視に隊を編成。
およそ一万の大隊でもってストレイト皇国軍は討伐隊を編成、進撃した。
飛竜の中心には白竜に跨る聖王シュレイザードがおり、城下の人々は自身の王の親征に歓喜の声を挙げた。

総大将は聖王・シュレイザード。
飛竜討伐隊の大将はガウェイ。
騎馬討伐隊の大将はヴェルスレム。
その旗下にも「海賊殺し・レッタンダム」「エルフの君・シュレルス」「閃光の騎士・ファルタ」「喪われたモノ・ガロルド」など大陸に名を轟かした錚々たるメンバーが名を連ね、それだけで聖王が事件の終着を今夜にかけていたのも分かるというものだ。

そして魔物を呼び寄せる「厭わしき水」を用いて、魔物を呼び寄せ。
一刻後には戦闘状態に突入した。
聖王・シュレイザードは騎士たち全員に三級全体防御魔法『聖なる衣』を纏わせ、騎士たちの体は例えドラゴンの爪であっても軽傷レベルまで守られ、魔物の軍勢を圧倒した。

あまりに強すぎて知性ある魔物の中には逃げ出そうとするものもいたが、逃げ出すことも出来ない程に力の差が存在した。
今、視界の脇で逃げようとしたオークの頭を斧でかち割った大男が戦場で叫ぶ。
「ゴラァ!!一匹たりとも残すんじゃねぇよ!!」
『海賊殺し・レッタンダム』だ。彼が斧を振りつつ叫べば、隣で『エルフの君・シュレルス』が弓でトロールの目に矢を放ったところだった。ザシュッと刺さった矢にのけ反るトロールの急所に今度こそシュレルスは剣を突き刺し、トロールはドオンッと地に倒れ伏す。
「情けは無用!!敵は情けなど持っていないのだから!!」
力ある将の言葉にどんどん兵たちの指揮は上がり、攻撃力が上がってゆく、もはや趨勢は皇国討伐軍にあるのは明白でヴェルスレムは目の前で切り結んでいた魔族の首を切り落とし叫んだ。

「勝利を我らが聖王陛下のために!!」

そして轟くような咆哮が騎士団に伝染するように広がった。

*****

上空では『聖王・シュレイザード』と並んで『炎の騎士・ガウェイ』、『閃光の騎士・ファルタ』と『喪われたモノ・ガロルド』が上空でワイバーンなどと戦っている。
ガウェイは炎を纏った長剣でワイバーンの翼を切り裂いた。
そして白銀の狼であるガロルドの背に乗りファルタは宙を駆け、敵を切り裂いていった。ファルタとガロルド二人のコンビネーションは早すぎて誰も捉えられない。


そしてシュレイザードはもうそろそろかと手に魔力を集めながら詠唱を始めた。


『はじめに言葉ありき そなたらの真名を我に捧げよ 聖なる王の名の元に 鎖を断ち切れ!!
アン・チェイン!!』

俺の手から光が溢れ、その光は真昼のように夜の闇を切り裂いて、光の鎖が魔物たちへ向かって広がった。

「おおおっ!聖王陛下っ!!
「陛下っ!!」

今までで一番の歓声が湧く、だが俺はそんな歓声には応える余裕はなかった。
魔物たちの堕ちた魂を光ある場所へ引きずりあげる。
聖性を保持していたアーサー王の力の一つで、光の鎖が一つ一つ向かうのは魔物の魂に向かってであり、死んだ魔物も放って置けば「死霊」になるので「聖なる鎖」で「邪なる鎖」から断ち切らねばならない。

汗がブワッと溢れた、この技は強いのだが自分の命を削るのだ。

死んでいると簡単に光の輪廻の中に魂は戻ってくれるが問題はまだ生きている強い魔物だ。騎士たちが頑張ってくれたから魔物は弱っている。

弱っていると光のなかへ戻しやすい。だから俺は何千という魔物の魂を光の鎖で理性あるものへ戻してゆく、戻すたびにコストとして自分の命が更に削られる。ゴホッと噎せたら口の端から血が零れた。

「陛下っ!!もう良いです!!陛下っ!」

地上でヴェルスレムが必死に叫んでいるのを俺は大丈夫だと微笑んだ。
だってHPまだまだある。

…そんな俺の姿を騎士たちは振り仰ぎ、どんな想いでみてたかなど俺には分からなかった。ヴェルスレムが苦しそうに唇を噛みしめ俺を見つめていたことも気付かなかった。

そして最後まで抵抗していた吸血鬼を光の鎖で雁字搦めにして魂を光の輪へ戻した。
途端にさっきとは違ってHPが、ガクッと削られて、俺は噎せた。

「ッっアァッゴホッゲホッ」

白竜の背に体を預けるように、噎せて血反吐を吐く。
やばっちょっと苦しい、あの吸血鬼ぜったい『二つ名』持ちだろ。
この技を使った後は俺はどうしても無防備だ。

「陛下っあとはオレがしますっ一旦お休みくださいっ」
ヴェルスレムが必死に地上から俺に手を伸ばしているから、視線を向ける。

だから気付かなかった…

丁度魔物との死闘を繰り広げた、この平原を見下ろす場所である崖に『夜鷹の盗賊団』が陣取っていたことに。
やつらは獣耳を持つ一族で気配を殺すのが上手い。

「厭わしき水」に一直線に吸い寄せられている魔物の目をかいくぐって、この戦場に近付くことは簡単だったろうし…ましてや魔物との戦いに意識を向けている討伐隊の目を潜り抜けることもまた簡単なのだ。
俺も一万の兵に防御魔法をかけたりしていたから、俯瞰魔法『イーグルアイ』を解いていたのが仇となった。

ドンッと空気を震わす音が響く。

オレが顔を上げると地上で驚愕に瞳を見開くヴェルスレムと目があう…
なんだお前いつも冷静なくせに…そんな顔をするんだなと少し可笑しくなって、微笑んだ時に俺は意識を強制的に失わされた。

*****

ヴェルスレムは駆けだしたい己を何とか抑えていた、聖王が「聖なる鎖」を用いるといつも血を吐いて苦しむ。それをただ見ることしか出来ない無力な己が切なかった。
ヴェルスレムの頭の中をフラッシュバックのように記憶が浮かび上がる。
それは金髪の青年を支える。自分の姿だ。
『陛下…アーサー王。』
『構うな、ランスロット、大丈夫だ。』
そして金髪の青年は微笑む、その笑みに劣情している自分がいた。
…全て奪い去ってしまいたい、王も民も何もない場所で二人で。
青年の頬を柔らかくなでると青年はスリッとその手に頬を寄せてくれる…それが幸福だった。

そこでヴェルスレムはハッと白昼夢のようなそれを振り払い自身の主に手を伸ばした。

「陛下っあとはオレがしますっ一旦お休みくださいっ」

だがそれは叶わなかった。

ドンッと空気を震わす音が響く。

そして蜘蛛の巣のように空に広がったのは『対人捕獲兵器・スパイダー・個』だ。
その捕獲兵器は魔法が練りこまれ『対象となる個人』以外は反応しない。
銀色に輝く網は夜空に広がり、白竜に乗った『聖王』を捕らえた。
途端に捕獲兵器の持つ『意識強奪』によって王の空色の瞳が閉じられるのをヴェルスレムは見ていた。

「やめろおぉぉぉっ」

その網が無情にも自分の唯一の主を捕らえるのを目の前にして…魔物との何時間にもわたる死闘を行ったストレイト皇国の騎士たちは動けなかったのだ。
そのまま捕獲兵器は『聖王』だけを捕らえ、平原を見下ろす形の崖へと一瞬にして攫ってしまったのだ。
そして夜鷹の盗賊団の盗賊王・ジュレガンは大音声で叫ぶ。

「てめぇらの大事な将軍様は俺が貰う!!こいつは俺のもんにするからついてくんなっ!!」

月明かりを背景にして、そして夜鷹の盗賊団は忽然と姿を消したのだ。





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