過去編1〜イベント『魔王の友人』〜

傲慢・憤怒・嫉妬・怠惰・強欲・暴食・色欲という七つの大罪をを司る『災厄の魔王』は長い長いときのなかで倦んでいた。
魔物や魔族を束ねるものとして在ると知りつつも強すぎるが故に孤独だった…

『魔王』として生まれた時は、もう既に大人の姿で自我を持って瘴気渦巻く漆黒の平原に立っていて、そこから気が遠くなりそうなほどの時間を独りで生きた。
本能のまま気まぐれに人を屠り、エルフを狩り、国を滅ぼしたりしても、心の奥は何も響かず。
作り物のように凍っている自分が倦んでいるのだろうとも思うが、その晴らし方など分からない…そんな数百年の日々の中で或る皇国の話を知る。

その国の王を人は『聖王』と呼ぶ、王は人の世では疎まれる魔族すら受け入れ、妖精やエルフですら心ひかれる『光の都』があると、そしてその都に君臨する王は数百年の時を生きているという。
ー・・・まるで自分のように。

故に、その国をじかに見たくなって魔王は一度だけ、人に化けてストレイト皇国へ足を踏み入れた。
その時は雪が降っていた、けれど不思議と明るい夜で、一面に降り注ぐ雪と、皇国の城外にあるシルル湖の淡く白銀に輝く水面が幻想的で魔王である彼ですら見とれた。

そこに佇む人影は真白の服を着ていた。
長い白のマントがはためいて、それと同時に細やかな刺繍がほどこされた布が鮮やかな色彩で両肩から翻る。一目で人が高位の人間と知れた。
流れる漆黒の髪がひどく綺麗で、空色の瞳が湖を見つめる様は宝石のようだと思ったのだ。

「なにものだ」

そしてその人の子は容姿と通じる凛とした声で、
背後にいる魔王に気付き、湖に向けていた空色の瞳をこちらに向ける。
透きとおった虹彩は魔王が生まれて始めて見る色だった。

「お前こそ、なにものだ」

魔王として魔族や魔物からかしずかれていたトールに、そんな口をきく者など居なくて、思わず嗤いながら尋ねると、人は幾分驚いたようだった。

「私を知らないのか」
「はぁ?なんでオレがお前を知ってると思うんだ、身の程を知れ。」

ぽかんっと呆けたように人の子は空色の瞳を見開いて、一瞬の後に爆笑した。

「フッアハハハハハッ確かにっすまなかった」

よほどツボに入ったのだろう涙を滲ませて快活に笑う、そうしていると思ったより幼いのかもしれないと思う。ただこちらを見上げた人の子は躊躇なく手を差し出したのだ『災厄の魔王』に。

「私は…いや俺はシュレイザード・ウィンドザムだ。よろしく。」

差し出される手。
知識としては知っていたが、それをしたことなど無かった。
ましてしようとも思ったことなど無いし、求められたこともなかった。

「俺はトールだ。」

そして『災厄の魔王』は数百年の時の中で始めて、人に触れた…。
雪のあわい燐光が湖を照らす、この幻想的な場所で、人の王と魔の王は邂逅したのだ。

*****

プレイヤー側からすると『災厄の魔王、虚無の進撃』は公式の鬼畜っぷりが発揮された最強最悪のイベントだったと言わざるをえない。なんか『災厄の魔王、戯れ』『災厄の魔王、誘拐』『災厄の魔王、壊滅』というイベントは前々からあったんだが、それらは『虚無の進撃』の前菜みたいなもんで可愛いものだったのだと俺らプレイヤーは知るのだ。

なにせ『虚無の進撃』は何千、何万という魔族、魔物の軍が、侵攻にある全てを奪いつくしながら、それこそ草一本も残らずに進軍するのである。しかも『災厄の魔王』はキャラクターでありながらプレイヤーをKILLできる存在なので…殺されたプレイヤーは『不死鳥の涙』とか持ってないと…嗚呼ムゴい。
生成画面からやり直しなのであるorz

まぁイベントの記憶はここらへんにしといて、『災厄の魔王』はキャラクターの中でもチートキャラクターである。そのうえ俺様で男前な性格、漆黒の髪と群青の瞳、褐色の肌の美丈夫とくれば、プレイヤーの人気も高く。彼を仲間にしたいという要望が運営に殺到したらしい。
故に『災厄の魔王』のイベント中は魔王さまと好感度を上げるイベントが頻発していた。
イベント内容はプレイヤーのレベルや職業にもよっても違うので魔王さまの動向は『わたぼくの魔王さま報告スレ』とかで紹介されていたりした。
だから俺もトールとは実は『虚無の進撃イベント』前から顔見知りである。
何しろ彼に特殊アイテム「奇跡の絆」使用して、好感度を500MAXにしたぐらいは、大好きなキャラクターだ。

はじめて会ったとき、夜の湖が見たくなって佇んでいたら後ろから近付く者がいて、誰だと思って「なにものだ」って問いただしてみたら、人に化けた魔王さまでした。
『わたぼくの魔王さま報告板』でも「魔王さまが焼き鳥喰ってたwクソワロタw」とか「魔王さま女に囲まれてるから誰か助けにいけwっていうかそのまま楽しそうだから合コン逝ってこいw」「←おまえが逝け骨はひろったげる」とか書き込みあったので、親しみが湧いていたので俺は全然警戒してなかった。
人に化けている時の魔王さまは好感度イベント仕様なのだ。

雪が降っているけれど不思議と明るい夜で、一面に降り注ぐ雪と、皇国の城外にあるシルル湖の淡く白銀に輝く水面が幻想的で、そのあわい光に照らされる魔王の男らしい端正な顔は息を飲むほどととのっている。
その魔王さまに、

「お前こそ、なにものだ」

と嗤いながら尋ねられて俺は瞳を見開く。だって魔王の笑顔って超レアって知ってるから!!
でも会話!会話しないとね!!

「私を知らないのか」
「はぁ?なんでオレがお前を知ってると思うんだ、身の程を知れ。」

身の程…一瞬、聞きなれない言葉にぽかんっと呆けてしまい、次の瞬間にはツボって爆笑した。
身の程っ!!いただきました!!ありがとうございます!!

「フッアハハハハハッ確かにっすまなかった」

あー涙でてきた。そうして俺は『災厄の魔王』に手を差し出した。
いいキャラクターだっ!公式グッジョブ!!

「私は…いや俺はシュレイザード・ウィンドザムだ。よろしく。」

魔王さまは穏やかに、その群青の瞳を細める。
柔らかい虹彩の中にオレを映す美丈夫、美味しいです。

「俺はトールだ。」

知ってるけど、まぁここでは初対面だ。
ぎゅっと手を握って俺たちは湖の畔で微笑みあった。

イベント『魔王の友人』達成。






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