その時が訪れるのを待つ話
「そなたも随分、余になれたな」
今朝まで帝に抱かれ中に欲をたっぷり注がれた智彬の後ろはクチュッといやらしい音を立てて、帝の指を食んだ。
「ふっあっ」
頭が溶ける・・・奥に、もっと奥に、帝の熱くて太い欲をガツガツとぶつけて欲しくて。
智彬は指を噛んだ。
「東宮の情を受けた、そなたを無理矢理、余が抱き染めるのは・・・酷くそそられる」
既に体は帝のモノだった・・・地位がそのまま力へ結び付くこの国で帝に逆らえる者など居はしない。
けれど智彬は心の奥底で幼馴染を思うのだ。
幼い時から同じ時を過ごした・・・唯一の主。
離れて、そして分かる。
自分の心は彼のものなのだと。
宮・・・
そして智彬は今宵も帝の腕の中で、鳴くのである・・・
帝の正妃である「藤壺の宮」は才色兼備で帝の後宮を瞬く間に整えたと聞かされた。
東宮・黎明の宮はそれを何とはなしに聞いて、その渦中の者に逢いたいと思った。
何しろ死んだ幼馴染・智彬の遠縁の者を帝が見出し娶ったというのだから。
面差しが智彬に似ていたらいい。
それは未だに東宮が智彬を愛しく想っているからこその・・・ささやかな願いだった。
そして運命は再び巡る・・・管弦の宴で。
丁度、天満月と三日月が空にかかっていた。
幻想的な光に、顔を隠す貴人達も御簾の端近に体を寄せていた。
そして宮は、藤壺の宮の御簾にそっと体を滑り込ませる。
その瞬間に体に震えが走った。
後姿があまりに・・・智彬に酷似していたから。
脈打つ心臓がうるさい。
それを必死に落ち着けて、歌を詠んだ。
あの時、送られた歌を。
思へども 身をしわけねば 心を君に たぐへてぞやる
すると、藤壺の宮の方が揺れて・・・ゆっくりと振り返る。
漆黒の髪がサラリッと揺れている。
その白磁の肌も。
何もかもを。
黎明の宮は忘れた事などなかった・・・
忘れる筈などないのだ・・・
この一瞬のような永遠。
二人は邂逅する。
帝の正妃と東宮として・・・
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