風呂!
結論から言えば、風呂は大変いい湯だった。
蝙蝠が風呂につかろうとしたのを全力で阻止して、蝙蝠はたらいに頭から突っ込む。
あばばっあばばっと湯を飲みながら喜んでいたので、良しとしよう、ケッ
そして蝙蝠は放置したまま、ヒノキ造りの風呂にザブーンとつかったり、体を洗ってサッパリしたりして俺は早々に風呂から上がる。
そしてこれまたヒノキ作りの脱衣所には浴衣が畳んで置いてあり、その横にはオレがさっき脱いだ服が置いてあった。その時、ピピッと嫌な電子音がした。
うっとつい身構えた俺だが『選択肢』は現れないようだ。
いかんこの少しの時間に恐怖が植えつけられている。
目に見えてホッとすると次は電子音が何だったのか気になり視線を巡らせると、脱いだ服の隙間でスマホが光ってメール受信を報せていた。
差出人がakuma@yahoo.go.to.hell。
あのメールだ。でも仕方がないからメールを開くと、俺の目にすぐ『新キャラクター追加!』文字が飛び込んできた。
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『特定の条件を満たしたので新キャラクターが追加されました!』
◆攻略キャラクター◆
<月宮SIDE>
主人公の片腕
黒田 英滋(クロダ エイジ) H度☆☆☆ 純愛度☆☆☆
(強面男前のヤクザ。出来る男。エロ師。)
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「ふざけんなっーーーー!!」
思わずスマホを握り締めながら叫んでしまった俺は悪くない。
だって黒田だぞっ、ガキん時からオレを面倒見てくれた黒田が「攻略キャラクター」ってどういことだゴラァッ!!
そうしたらバタバタと足音がして、
「坊っ、なにかあったんですかっ」
と風呂の脱衣所の扉をスパーーーンッと開け放ったスーツ姿の黒田が現れた。
何も言えない、裸なオレの耳に。今度こそ無情な電子音が響いた。
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!
なんだごらぁ!!
目の前には目を見開いている男前な黒田!
俺の家族ともいうべき奴なのにっそれは無い!マジでオレ死んじゃう!!
精神的に死んじゃうっっての!やめてぇ!
ガクッと心が折れてスマホを持ったまま崩れ落ちたオレ。
すると直ぐに黒田が側にあったバスタオルを持ち、それをオレにかけながら顔を覗き込んでくる。マジでお前はデキル男だ、黒田。
「ぼん?」
やめてくれ。
声かけないでくれ。
んっ?あれなんかオレは大事なことを忘れて…と、ピコーーーンと無情な電子音が再び響いて。
選択肢の選択を忘れていたああぁぁ!!!!
一気に血の気が引いて、挙動不審になるオレに黒田はかけてくれたタオルの上から俺の肩を強く掴んできた。
「ぼん、この鬱血はなんです。」
そして黒田に生まれたまんまを見られている俺は…白鷺と冬樹がオレに付けたキスマークを全く失念していたのだった。
「これをヤッた奴は誰です?」
マジで怖い、黒田の瞳がギラギラしてキレてると俺には分かった。
黒田はキレるとマジで怖い。
俺はそんな黒田の姿と、選択肢の内容がこれから起こると思うと、もう打ちひしがれ過ぎていて、ただただ唇を噛んで俯いてるだけで反応できなかった。
そんな俺に埒があかないとでも思ったんだろう、黒田は舌打ちをするとオレの膝に手を差し入れて抱き上げた。
「うわっ」
「坊が言わないんだったら自分で確認します」
どういうことか俺には全く分からない。
「黒田っ待てっ」
って黒田の胸を突っ張るのに全然効きやしない。そのまま黒田は足でスライド式の風呂場のヒノキのドアを器用にガッと開けるとオレを抱えて風呂に突入した。
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