ACT.重衝





さらさら

さらさら

さらさら

華が舞う…薄紅の華弁が十六夜の月光の元に漂っている…
その一つが手の上に沈み…彼は紫水晶の瞳を細めた。そしてその華弁に口付ける…

「桜花 散りぬる風のなごりには 
        水なき空に 波ぞ立ちける…」

渡殿に居る彼の低い艶やかな声が辺りに響く…それは思わず誰もが聞き惚れる程の…

そして彼は十六夜の月を振り仰いだ…

「何だろう…」

彼の想いが何か脈打って…落ち着かなかった…


それは予感…


彼は自身の胸を抑えた…酷く騒ぐ心臓を…

それは遥か切なく…暖かく彼を締め付けて…想いが散りじりに溢れて…留める事など出来ない…


逢いたい…逢いたい…逢いたい…


無性に『逢いたい』…


この…まるで生まれた瞬間から持っているかのような『想い』…


ポタッ


知らず瞳から雫が落ちた…

十六夜の月が輝くから…薄紅の華弁が空にたゆたうから…

だからだろうか…この幻のような場に居るから…こんな不可思議な『想い』に捕われるのだろうか…

逢いたい…と零す…と見上げていた月がみるみるうちに雲に顔を隠してしまった…渡殿にも影が落ちる…

「つれないことですね…」

睦言を囁いたら逃げてしまう…そう想った…そして…


その瞬きの間…


白銀の光が寝殿に満ちた…夜の薄闇を切り裂くような鮮烈な…優しい光…


彼が驚きでハッと其処を見ると…その光はだんだんと女の形を取った…

白銀の光が眩しく彼女の周囲を回り…さらさらと漆黒の髪が白磁の肌を揺れる…それは清らな存在…

息が出来ない…

その存在に全てが縫い付けられる…


『人』などと想える筈がなかった…


…『十六夜の月』の化身…そうとしか想えなかった…


そして…彼女の伏せられていた顔が上げられて…薄闇の灯明によって照らし出された彼女を見た時…
雲が晴れるように理解した…


あぁ…この人だ…この人が私の『想い』の理由なのだ…


逢いたかった…ずっと…逢いたかった…幾月…幾年…生きてきて…彼女が私の…『想い』だと…


逢いたかった…貴方に…


「月は群雲に姿を隠し…人の姿をとったのですか?」


フッと視線を向けた彼女の漆黒の瞳に私が映って…それにまた『想い』が揺れた…





桜の花が散って行った…その風の名残には,水のない空に華弁の波が立っていることですね…

(名残と余波をかけている)





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -