ACT.知盛
ザアアアァァァァァ
潮音が啼いているように響いていた高く低く…遠く…近く…
その中で剣戟の音と血の匂い…そして死骸の凄惨さが俺の五感全てに迫ってきて…
俺は理解していた…
あぁ…平家が滅ぶと…
娑羅双樹の花の色…というが…フフッ…平家が滅んだ時…天下は変わるだろう…『源氏の世』へ…
それはそれで少し引っ掛かるが…まぁ良い…
一番,俺の内で引っ掛かっているモノがあるから…
それが…俺の前に現れたことだけでも感謝しなくてはな…
幾千幾万もの人の祈りの具現と言われるモノ…ではアイツは俺の『祈り』の具現だ…きっと…
血で染まった剣…それと酷似する紅の唇…漆黒の刃のような瞳…見つめられるだけでゾクゾクとする女…フフッ…俺がこんなに『想う』ことがあるなんて…それが,どんなに奇蹟に近いことか知らないだろう…俺の『祈り』は…
どんなに俺がその存在に焦がれているか…
どんなに俺がお前と相対したいか…
どんなに俺がお前を独占したいか…
お前は知らない…そしてきっと知らないままで俺は消えるのだろうな…この現実という場所から…
それは予感…
俺はきっと…そうだ…
けれどそれでも良かった…一時でも,その瞳に『俺』が居るなら…それも悪くない…
そして…
俺の船に乗り込んできたモノを見て…
つい微笑んだ…
「知盛…」
俺の『祈り』が俺の名を呼ぶ……
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