『成実と政宗』act.3



風の音、人の叫び声。

ザアァァァァ・・・

反伊達軍の旗が視界を覆っていた・・・
南奥州に本拠地を構える諸豪達・・・
彼等が同盟を組み、伊達家を飲み込もうとしていた。

敵は三万の軍勢、対して伊達軍は・・・七千だった。

兵力の差という劣勢は覆いようもない。

「あーぁ、キツイねぇ」

成実は野も山も敵の旗ばかりが翻るこの状況を、そう適格に言い切った。

成実は敵方の右翼勢を人取橋で抑えていた・・・一万の軍勢を千の兵で・・・

成実の一言を聞いた部下の下郡山内記が、スッと成実の兜に付いていた纏を抜き取り、「陣をさげましょう」と沈痛な面持ちで進言する。

もう無理だと、部下の中でも諦めの色が濃い。
圧倒的な兵力差で孤立している成実の軍は応援すら期待は出来ない。

けれど・・・成実が引けば敵の軍勢は政宗の本陣へ直接切り込むことになる・・・

成実はそこで一度、深く瞑目した・・・

風が成実の頬を撫でる・・・戦場の空気だ・・・

そして戦場になっているのは・・・俺たちの故郷で。


『ねぇ、梵。』


君はさ、きっと軍を下げても怒らないだろうね・・・
きっとあの酷く不器用で優しい従兄弟は怒らない・・・

けど俺は・・・守りたいんだ。

梵も俺たちの故郷も。

息を吸って、声を・・・想いを乗せる。

「纏を元に戻せ!」

息を飲む部下の視線が成実を射抜く。

梵・・・俺に君の勇気をくれ・・・

「たとえ味方が皆、死んだとしても!ここを退けば末代までの恥だ!!敵わなくとも防いで、討死し、恥辱をすすげ!!
味方が多勢に無勢であるから!出陣した時より必死の覚悟に事にあたるんだ!!」

成実の言葉に一気に部下達の瞳に生気が戻る。

内記が「天晴れ」と云っているのに、成実は笑みを浮かべた。

「最後の戦、清くこそ攻めろ。不覚をとって死んだとしても休ませない。者共!!かかれ!!かかれ!!」

そして成実は馬を蹴った・・・
一万の軍勢へ向かって、兵を奮い立たせる為にも先頭で成実は刀を振るい続けた・・・

「殿を討たせるなぁ!!!つづけぇ!!」

火車のように成実軍は孤軍奮闘した。

奥州に夕陽が落ち・・・
敵軍がとうとう兵を引き上げるまで・・・

たった一千の兵で・・・一万の兵を抑えたのだった。





この戦闘は史実です。
成実が言った言葉も、成実が陣を引くと政宗が直接、敵軍に叩かれるのも本当です。
一万VS一千の戦というのも史実です。

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