巡る季節

龍神の神子達が降臨してから二度目の秋がこの大内裏に巡っていた…

神子達によって救われた京…宮中は今でも,その話題が持ち上がることが多々ある…そして特に『八葉』だった者達は,ある者は陰陽頭,ある者は僧正とその方面で華々しく出世していった…そして…

「右大臣様の参上でございます」

先導が大内裏を進んでゆく…その後に従う彼…漆黒の束帯を纏い,短い髪は,そのまま無造作に任せていた…それなのに妖しいまで美しく…周囲の几帳の影からは女房達の感嘆の吐息が零れた…

「今日も美しいですわ,右大臣様は…まだ北の方を貰ってないだなんて嘘のよう…引く手あまたでしょうに…」

次々と賛同者が出るなか…ただ一人そこに偶然いた古参の女房は彼女達を叱りつけた。

「滅多なことを申してはなりません…あの方は心に決めた方がいらしたのですよ…」

その言葉に場は静まりかえる。そして勇気のある一人の若い女房が彼女に尋ねた。

「いらした,ということはその方は…」

「ええ亡くなられています…二年前に…」

その意味することに女房達は考え付き,皆一様に押し黙った…

「さあ皆さん,このように端近にいるものでは御座いません…奥へ参りましょう…」

そしてその古参の女房は気の利いた一言で場を慌しく動かしていった…


帝の元に参上すると含み笑いを向けられて『彼』は内心,閉口した。だが何も言わない…すると帝が口を開いた…

「そなたが参上すると変わらず騒がしくなるようだ…友雅…」

そして『彼』…右大臣・友雅に視線を向ける,と友雅は面白そうに帝を見ていた…

「帝が彼女達の局へ参られれば…必ず彼女達は私の時より騒ぐと思いますよ」

それはそうである…帝は普通,女御でなければ通わないのだから…それを判っての言葉である…すると帝は『友雅には,かなわんな』と呟いて,今日の議題を持ち出した。


「神泉苑での宴ですか…」

友雅は帝の口から出た言葉にフッと溜息をついた…

「それでなくとも司召除目が控えてます。止めておくのが無難とは思いますが…」

だがこれで相手が引き下がると友雅も思っていない…やはりというか思った通り帝は快活に笑って友雅の言を『いつものことではないか』と切って捨てた。そしてツイッと渡殿まで歩き広大な大内裏の庭を見渡す…紅葉が染まり…まさに季節は美しかった…

それに目を細めて帝は友雅に背を向けたまま呟いた。

「まだ想っておるのか?」

誰かと聞かない…わかりきっていることだったから…

そして帝は後ろから『はい』と一瞬の躊躇も無く答えた友雅に優しい微笑みを向けた。

「そなた…頭は良いのに,馬鹿だな」

帝のどこまでも慈愛に満ちた微笑に友雅は耐え切れず俯く…そう帝からは何度も皇族の妻を娶るよう打診があった…それを断り続けたのは他ならぬ友雅だった…

本宮を想っているゆえに…二年前に光に飲まれて消えた少女を…愛してるゆえに…他の女性など彼には考えられなかった…

そして帝は友雅のすぐ目のまえに来ると,かがんで,下を向いて俯いている友雅の顔を覗き込んだ。

「私はそなたに幸せになってもらいたいのだ…友雅よ。これまで良く私に仕えてくれた…もう良いではないか…そなたは応龍の神子に対し贖罪した…そうであろう?」

帝は何故,友雅の髪が短くなったかを知っている…そう本宮の形ばかりの葬儀が行われた時に友雅が切って捨てたのだ…艶やかな黒髪を惜しげもせず…

『私も…死んだ…だからこれを空の棺に納めてくれ…』

そう聞いている…

だからもういいと思ったのだ…友雅はかつての彼から比べられないほど真面目になり…右大臣達の帝位譲渡の陰謀も未然に阻止,逆に右大臣まで上り詰めた…

その孤独を埋めるように必死に仕事に明け暮れる友雅の姿は周囲には痛かった…痛々しくて見ていられない程だった…

だから…

「今回の神泉苑での管弦の宴で憂さを晴らして,北の方を娶るのだ…大丈夫。子でも出来たら,変われる…」

真剣な帝の言葉に,やっと事の真相が見えて友雅はハッとした…何故こんな忙しい時期にと思った…それが今,解けた…

「わかりました…北の方はともかく…宴には出させてもらいます…」

帝の温情を無下に断るのは気が引けて友雅はそう答えると,その言葉に帝はまた優しく笑った…




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