海〜抱擁〜
愛してもない女を抱いて何になるのか…
愛した大切な人でないなら意味が無いのに…
寂しさを紛らわそうとしても…それが…増すだけなのに…
真貴の白い胸が高みへ上った熱さで薄紅色に染まる…その上を漆黒の髪が艶やかに滑るのに溜息が零れる…
もう…待てなかった…
真貴の両足を持ち上げ彼女の秘所に楔をあてがうだけで真貴は甘く吐息を漏らし,潤んだ瞳で私を見上げる…
物欲しげに…
そこには先ほどまで鮮烈に私を睨んだ彼女など微塵も存在しない…それに眩暈がした…
「いれるよ,真貴…」
微かに真貴の残った理性が私に怯えた視線を向ける…
それに何故か胸の奥がズキンッと痛んだ…有り得ない…罪悪感でも感じてるのだろうか…この私が…
そしてそれを振り払うために,身を真貴の内に埋めていった…
グチュリッ
と水音が響き,深い快楽と熱が私を包んだ…
入ってくる…翡翠が…私の中に…
それは真貴にとって鮮烈な感覚だった.目の前で翡翠が快楽に染まった顔で真貴を支配する…
「あっんやぁぁぁ!!」
熱い!!なんでこんなに熱いの!!
「っつ!!静かにしなさい,気持ち良いはずだ…ほら!!」
途端に激しく揺さぶられて私は,ただただ受け止めることしか出来なかった…
「ふあっ,んっやぁ」
こんなにも簡単に翡翠に支配される…
私の体は…淫らに翡翠の楔を飲み込んで…絶えず美味しそうに水音を響かせる…
「いやぁん…」
こんなにも『女』であることが分かるなんて…こんなにも快楽を感じてる…
そして翡翠に耳を甘噛みされるだけでゾクゾクとして,もっと,と思ってしまう…
嫌な筈なのに…体が反応してしまう…
気持ち良い…翡翠が私の中に居て…掻き回して,乱して快楽を刻んでゆく…こんなの知らない…こんな私,知らない…
…怖い…
…翡翠が私を簡単に支配して…私を私でいさせてくれない…
ツーッと真貴の瞳から溢れた涙に翡翠は動きを止めた…微かに眉を寄せて…
何故だろう…私は…真貴の涙を見たくない…みたいだ…
この感情は何だろう?不思議だ…欲しいのは『真貴』の代わりのはずなのに…
翡翠は溜息を漏らした…そして優しく真貴の頬に指を滑らす…
「どうしたんだい?痛いかい?」
先程とは全然違った…まるで最初に逢った時のような優しさ…真貴は逆に暖かくて涙が溢れた…
反面,何故泣いてるかなど分かりきってるのに尋ねる翡翠の残酷さに涙が溢れた…
「貴方なんて…大嫌いよ…」
想いが溢れてくる…憎しみ…恐怖…そして憧憬…
この翡翠と出会って感じた感情…それらが,あまりに鮮やかで…心が悲鳴を上げてる…
真貴を簡単に動揺させた美しさ…喜ばせた優しさ…裏切られた憎しみ…悲しみ…
そして甘く陶酔の中で真貴を支配する猛々しさ…全てに眩暈がする…
重すぎて…
もう独りで抱えられない程に重すぎる…
そう…想すぎる…
嫌われ…憎まれるなど分かっていたことだ…体を無理矢理、手に入れて…心を手に入れるなど不可能だ…分かっていた…分かっていてやったのだから…
「そう、でも君を今、抱いているのは私だよ…」
わざと傷つける言葉を囁くと涙がまた真貴の瞳が零れる…それに罪悪感を感じてるのに…暗い愉悦が込み上げる…どんどん堕ちれば良い…そして君の胸から私以外を締め出してしまえば良い…
君は傷ついて…そして私だけの者に成る…私だけを受け入れて…私だけを感じて鳴くようにしてあげるよ…
真貴…
すぐに翡翠は,また抽挿をはじめ…肉がぶつかる音,肢体が交わって響く淫らな水音,そして耳元で囁かれる睦言…
それに真貴は耳から犯されてる気分になった…もう真貴の僅かに残っていた思考は『媚薬』と『愛撫』と『翡翠』でドロドロの溶けていた…
そのため羞恥心なく真貴は嬌声を上げる…
グチュリ,ヌチュ,パァン,ピチュ…
「あああぁぁぁ!!やぁん!!」
下半身からの『熱』が真貴の全身を覆って…もう何がなんだか分からない…
「可愛いよ…フッ,真貴…」
グリグリと奥を掻き回されると頭が真っ白になる…
「ふあぁぁん,いやぁ!!あん!!」
気持ち良い…翡翠…翡翠…翡翠…
もう『翡翠』が誰なのかとか…よく思考出来なくなっていった…ただこの快楽が熱い…
「気持ち良いかい?」
意地が悪く動きを止めると真貴は堪らなくねだる…潤んだ瞳で…紅い唇で…
「気持ちぃ…もっと…欲しぃ…」
途端,真貴の内がきつく収縮して『翡翠』を締め付けた…
「ッツ…いけない子だね…私を締め付けて放さない…いいよ…全部,君の中に出してあげるよ…」
それが何を意味するのかも知らずに真貴は頷いた…
そんな真貴を見て,翡翠は微笑むと更に激しく楔を打ち込んだ…そのあまりの激しさと深い快楽に真貴は息すらままならず喘ぐ…
グチュ、パアァン、ヌチュリ、ビチュ
と水音…翡翠と真貴が互いを求める音が…段々と増していって…
真貴の顔の両側に置かれた翡翠の腕に支えを求めた真貴の手の爪が食い込んで紅い跡を引く…それすら翡翠には甘い感情を呼び起こした…
真貴の『男』は自分だけだと…
「ああぁぁぁぁ!!翡翠!!翡翠!!」
翡翠が動きを止めて,グリッグリッと真貴の内側を掻き回す…その刺激に真貴は生まれて初めて,翡翠の腕の中で達した…
真貴の翡翠の印を刻まれた白い胸に汗が流れ,艶やかな黒髪がその上を伝う…その桜貝の唇が喘ぎ声を発して…その鮮烈なまでの美しさ…
そして真貴の内の翡翠も大きく脈打ち,真貴の締め付けに熱い白濁した液をドクッドクッと注ぎ込んだ…その艶やかな長い髪はその時ばかりは乱れて…それが更に妖艶さを増していた…
真貴の初めて達した敏感な体に翡翠の熱が更なる快楽を真貴に注ぎ込む…それに真貴は頭が真白になって眩暈がした…
二人の熱い吐息が潮音の響く船室に零れる…
翡翠は…真貴の理性が溶けたのを知ると手首を縛っていた流星鎚を解いた。
解放された真貴の手首に紅い跡が残っているのを翡翠は眉を寄せ…両手を持ち上げ、まるで癒すかのように舐め上げる。
それだけ見れば…恋人のように…優しく…
その動作に真貴は,ゆるゆると胸に悲哀が満ちてくるのが判った…
翡翠のモノに成ったのが自分でも理解出来る…今だ真貴の内に在って熱さを発している翡翠自身がソレを強く物語っている…
胸に在る暖かい人の声が遠ざかった気がした…
『真貴ちゃん!!』
私を笑顔で呼ぶ声…私を励ます声…私を好きだと言ってくれた声が…想った人の声が…
「景時さん…」
ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…許して…許して…許して…
助けて…
涙が溢れた…心が悲鳴を上げてる…
死にたいって…叫んでる…穢れた自分の存在を自分が許せない…
「ふっ…」
唇を噛んで嗚咽をこらえても…涙は止めどなく頬を伝う…
想った人以外の『男』を受け入れて…その『男』に感じて…初めて女としての悦びを知った自分がおぞましくて…醜悪で…気持ち悪かった…
泣き叫んで…非難するのだったら…私は君をきっと見捨てられた…それを望んでいたのかもしれない…私を何処かで幻滅させて欲しかった…そうすればコレだけで終えられたのに…
ただ静かに頬を濡らす真貴…美しくて…私に支配されたのにも拘わらず…清らかだった…それに冷えきって死んだ筈の『心』が熱く震えて…
それは恐怖だったのか?それとも罪悪感だったのか?
まだ真貴の内に在る自身をそのままに彼女の頬に口付けて涙を拭っていくと真貴の涙はますます溢れる…
言葉になど出来ない…
胸が熱くて…
私は自分の熱がまた戻って来ているのに気付いていた…もちろん私を今だ受け入れている真貴が気付かない筈は無く…ハッとして私を見た…それにフッと微笑を返し…そして甘く囁いた…
「今度は最高に優しくしてあげるよ…私の真貴…」
それに今度は絶望から真貴の黒曜石の瞳から涙がぽつりっと落ちた…
何処までも…私という男は君を傷付けることしか出来ないようだ…安らぎなど…私達の間には存在しない…皆無と言っても過言では無いのだろう…
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