哀しみの連鎖

食い千切られるような瘴気だった…息を吸い込むだけで冷たく、全てを止めるような…だがそれも黒龍の召喚に,アクラムが失敗し…徐々に薄れつつあった…

彼は召喚の一歩手前で友雅に切りつけられ,血の穢れを受けたのだ…神子でもない彼が黒龍を召喚するのは無理な事だった…

地面に鮮やかな紅い華が咲いている…それに微かに友雅は暗い喜びを感じていた…この傷では重傷だ…

もうずぐ…死ぬだろう…

だが最後は私では駄目だ…共に来た頼久でなければ…友雅は一歩下がって,後方にいた真貴を背に庇った…

そして頼久の刀が、もはや動けない『鬼の首領』に振り下ろされる…全てに終止符を打つために…

けれど…

「やめてえぇぇぇ!!」

悲鳴がその刀を止めた…




これまでの出来事もこれまでの絆も全部,失くして良いと想った…彼の人を亡くすくらいなら…

友雅さんに彼が切られた時,喪う恐怖に声が凍った…紅の血が滴って…嫌…嫌…失くせない…絶対に…だから頼久さんの刀が振り下ろされようとした時,思わず叫んでいた…

「やめてえぇぇぇぇ!!」

まろぶように友雅さんの背から飛び出す…私があの人を庇えば誰も傷つけられないと想ったのに…

後ろから信じられない言葉が聞こえた…

「頼久!!切れ!!」

ナンデ…友雅サン…

そして私が辿り着く前に…

ザシュッツ!!

紅が舞った…あの人が好きだって言った色…

あの人の体が崩れ落ちる…

ヤメテ…連レテ行カナイデ…

「いやあああぁぁぁ!!アクラム!!アクラム!!」

駆け出そうとした体が後ろから抱き上げられた…

「真貴殿,もう死んでるよ!!」

心臓を突かれたのだからね…そう言われた言葉に涙が溢れた…視線を向けて,その先に倒れ伏した彼の人はピクリッとも動かなかった…死んだ…死んでしまった…


『お前は変わっているな真貴…』


瞳を閉じれば思い浮かぶ面影…光を受けて輝く髪、穏やかな波を想わせる瞳、整った面立ち…私だけに優しい声…鮮やかな彼と過ごした日々…


『私は鬼だぞ…』


それでも優しい貴方…


『…私は…真貴が好きだ…いや…愛してる…』


心が…壊れて…


もういいよ…私はもう…いい…


アクラム…貴方の所に行きたい…


それは突然の光の奔流だった…


白銀の神気が一瞬で黒龍の燻っていた瘴気を薙ぎ払い…見る間に京を覆った…

だが友雅は戦慄した…肩に乗せていた真貴が光を放ち…そして彼の腕から離れ…宙に浮いたのだ…

愛してる…その想いの在処が手の届かない所に行こうとしてるのが、わかった…

愛してる…言葉では表せないほどに…だからこの手を血に染めた…全ては君の為だけに…

「真貴殿!!」

声を上げても何一つ反応しない…ただ虚ろな視線を友雅に向けるだけ…それにゾクリッと友雅は喪う予感に寒気がした…

ザアァァァァァと白銀の光が天から舞い降りる…そして,その天から一匹の優美な獣…白龍が降りてきた…どこまでも神々しく…

いよいよ光が増し…もはや目も開けられない…押し潰されそうな神力の圧力に崩れそうな膝を叱咤して…友雅は叫び続けた…咽喉が痛みで悲鳴を上げても…ずっと…


『やめてくれ!!行くな!!真貴殿!!』



そしてその願いは泡沫に消える…友雅の手にただ想いの欠片だけを残して…

それは愛しいほどに…哀しかった…


『想い』の欠片が白銀の光を放って天から舞っていた…

優しい光…

まるで彼女のようだと想うと自ずと彼の頬に雫が伝った…

愛してた…愛してる…だから…手にしたいと足掻いて…全てを失くしてしまった…

真貴…想うのは龍神に愛でられし清らな宝玉…この生が終わる時まで共にいたかった…

『友雅さん!!』

甘い声で私の名を呼んで欲しい…逝かないで欲しい…残さないで欲しい…愛してるから…

そして気付く…


私は真貴殿にも,この『想い』をさせたのだ…


あの鬼を殺そうとした時に泣き叫んで彼の背から飛び出した真貴…


彼の膝がガクガクと震えて,ついにその場に崩れ落ちた…


昨日,愛しい神子に囁いた彼の言葉…『私は君を守る…全ての嵐から…全ての苦しみから…君を守るよ…』その言葉…


雫が頬を止めどなく伝う…


なんて笑えるんだろう…彼女を一番,苦しめているのは…私じゃないか…

そして真貴殿を殺したのも…私だ…私が殺した…

「ツッ」

嗚咽が咽喉から零れる…唇を噛んで耐えても零れ落ちる声…こんな私は,なんて滑稽なのだろう…

「真貴殿…」

白銀の光が降り注ぐ…京に…あの『紅の鬼』にそしてこの『罪深い鬼』に等しく…どこまでも優しく…暖かく…


どこまでも想ってる…言葉に出来ないほど…


私の『想い』の全ては君という存在に凝縮される…私の光…だから私は君に一生を捧げよう…


愛してるよ…真貴殿…




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