俺以外に騙されるなよ

駆け引き無しの恋に恋焦がれ。

男と女とか、そんな野暮なことな言いっこなしで。

人として、アンタに焦がれていたい・・・


桜が舞っていた・・・
月が照っていた・・・

その仄白い明かりに照らされて、一人の女が衣と羽織を纏っただけの、しどけない格好で
華を愛でていた。

はらはら舞い
はらはら散る

「儚いわぁ」

それは自分の人生のようだとも思う、

「櫻の樹の下には死体が埋まってるそうだぜ」

と、夜の帳の中で玲瓏な声が響いた。
月光に浮かび上がった姿は端正な弥一の姿・・・
少し茶色がかった髪、整った鼻梁。
まるで役者絵から抜け出てきたかのような佇まいだった・・・

「俺が好いてるって言ったら、アンタはどうする?真貴。」

このような戯れ言は今に始まった事ではなかった。けれど今夜は何処となく響きが違うと感じるのは何故だろう・・・どこか切々と響く弥一の声。

「どうもなにも、何も変わりはしまへん」

なにかあったのだろうか?

弥一は外であったことを話してくれるけれど、それは他愛のない、楽しい話ばかりで・・・彼の本質には触れさせてくれない。

けれど真貴の返事に満足したように弥一は儚く、微笑む。

櫻が舞っている・・・

「俺以外に騙されるなよ」

はらはら舞う花弁の中で美しい人・・・

俺以外の誰にも心をを許すなと、言われているような気がした・・・

「誰にも騙されやしやせん」

それは睦言のように甘く、二人の間に響いた。

そして弥一は艶然と微笑むと、くるりと向きを変えて桂屋へと戻り、草履を脱いで回廊から、その手を真貴へ伸ばした。

「何もしねぇ、今夜は月が綺麗だ・・・朝寝でもしようや」

三千世界の鴉を殺し、
主と、朝寝がしてみたい。

そして花魁も櫻が綻ぶような微笑をその唇に乗せたのである。




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