顔真っ赤にして否定されても

声を上げられるのは、羨ましきこと。
ほんに、羨ましい。


桂屋に花魁はたった一人。
真貴花魁。
優雅な佇まい、深い教養。
姿絵にも描かれ、どこぞの御大臣と相手しても恥ずかしくない桂屋の宝だった。


その花魁が他の女郎達と赤格子の中でゆったりと客引きをしていると、界隈の男達の視線は花魁に向けられる。

「花魁は美人だ」
「上玉たぁ、この事だね」

かけられる声に艶然と笑って、脇息に凭れかかっていると、新参の者がジッと自分を見ていることに気付いて、真貴はツッと首を傾げた。

それだけでシャナリと鳴る簪と白い首筋が美しい。

「なんでっしゃろか?」

「いえ」

少し頬を染めて俯く、まだ幼さが残る顔にふわりっと笑う。
「言いたい事があるなら、言っておくれなんし」というと幾許かの躊躇の後、彼女は口を開いた。

「花魁は、」

ここで口をいったん閉じて、一目を憚るように真貴の耳元に彼女は口を寄せた。

「弥一はんを好いとるんでっしゃろ?」

密やかな、秘密な響き・・・
それに真貴は漆黒の瞳を閉じて、溜息を一つ。

「それはお前さんでっしゃろ?」

そして艶やかに笑う。
その姿を見とめ、新参の女朗は頬を染めた。

「違いますっ」

花魁の艶姿に当てられたのか、本音を言いあてられた故なのかは彼女には分からなくて・・・

「そのように顔を真っ赤にして否定しても、分かってありんす」

ただ目の前の花魁の笑みがゆるりっと余裕があって心を掻き乱したのである・・・

数日に偶々回廊で見かけた、二人の口付けのことを、この場で追求することは出来なかった。


初々しく。
ほんに羨ましい、ほんに。
そう言えることが羨ましい。

自分の想いは沈めなければならない、あちしには。

羨ましくて仕様が無いでありんす。




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