さびしい / 君にそばにいて欲しかったこと

声を聞きたかった、お前の声が・・・

抱き締めて、守って・・・
真綿のように包み込んで、俺から離れるなと伝えたくなって・・・

泣きたくて、堪らない気持ちになった・・・


俺から手を離しておいて・・・

あいつは泣いていたのに・・・


そして俺は真実を知り、そのまま宴の場へと戻った。
皆が酒を酌み交わし気分良く湧いている・・・

その中で・・・

お前が居ない・・・真貴・・・

どんなに視線を泳がせて探しても、いない。

『政宗様』と数日前まで俺を見つければ、鈴のような凛とした声で呼んでくれた・・・

お前がいない・・・

お前が居ない・・・それだけが、それだけで崩れそうだ・・・


ジッと渡殿から宴の座敷を見ながら、心が締め付けられるように痛んで、俺は空っぽの右目に手を添えた。

寒い、寒くて堪らない・・・その中で・・・沸々と真貴を陥れた、あの女中達へ怒りが湧き上がる。

「おい、小十郎」

そして俺は腹心の部下へ、声をかけたのだ。

真貴が受けた恥辱を、苦痛を返してやらなければ、どうにかなりそうだった・・・


俺に呼ばれたと言えば、彼女等は意気揚々と宴の場へやってきた、それに吐気がする。
宴会で呼ばれたから衆目をかなり引いている・・・俺の目論見通りに。

「政宗様、お呼びですか?」

代表して、一番目上だろう女中が俺に尋ねる・・・それに俺は出来るだけ柔らかく微笑を浮かべた。

「あぁ、お前たちに褒美を取らそうと思ってな」

途端に喜色を浮かべて浮き足立つ醜さ・・・に怒りを耐えて手を強く握る。

「政宗様自ら褒美とは、何で御座いましょうか?」

嬉しそうな、その瞬間を・・・叩き落してやると思って・・・俺は声を落とす。


「何、大した事じゃねぇ・・・」


ここで俺は深く息を吸った・・・そして裂帛の気合を叩きつける。


「てめぇ等が有りもしない流言を流しっ!
真貴を貶めたっ!!」


ギッと切り裂くような蒼の隻眼が女中達を睥睨して、その宴の場に居た全ての者達は主の激昂に息を飲む。


「それにより真貴は城を離れっ!」


俺の側を離れて・・・


「一人っ!当て無く城より追われたっ!!」


独り・・・当てなく、この乱世を・・・俺の側から離れてっ!


「その罪っ!万死に値するものと思えっ!!」


そして俺はその場で刀をスラッと抜き放ち・・・息を飲む周囲など関せず、振り下ろす・・・

ドスッッ

そう音をあてて・・・女中の前の畳に白刃が突き刺さった・・・

「ひぃっ」

切られると思ったのだろう、女中達は青ざめた顔で腰を抜かしている。

「・・・てめぇ等のような人間は此処に必要ねぇ・・・とく去れ。」

そして政宗は彼女達に吐き捨てるように・・・そうい言い放ったのである。


そしてその後は成実が機転を利かせて、彼女達を連れ出して・・・宴は幾分か落ち着きを取り戻した・・・

だが其処等で交わされる会話はどうしてもそちらの話になった・・・

「まさか女中頭だった真貴殿の噂は全てが嘘偽りであったとは。」

重臣の一人がそう口にすれば周囲も、それに眉を寄せる。

「だが彼女は、もう・・・」

思えば、政宗様と幼い時から過ごしていた真貴の人柄を我々は知っていたのに・・・そういう後悔が彼等からは見て取れた。

「我々は判断を誤ってしまったようだ」

そう人は簡単に判断を誤る・・・

「だが呼び戻そうにも、どこ行ったかも分からんだろう・・・」

人は人を傷つけてしまう・・・彼等はそして皆、一様に押し黙ったのである。


自室から欄干に凭れて、月を見ていた・・・するとスッと襖が開いて、小十郎が俺の部屋に入ってくる。

「政宗様」

言わなくても分かってる、小十郎なりに聞きたいのだろう、

「真実を知っただけだ、真貴が陥れられていたと」

詳しいことを話す気にもならない俺の様子を小十郎は真剣に見ていた、そして・・・どれくらいの時間がたっただろうか。


「・・・政宗様・・・俺は・・・真貴を慕っています」


そう心の内を吐露した・・・低い玲瓏な声で。

息を飲む、気付いていたけれど・・・言葉として聞かなければ気のせいとも思えたのに・・・

「真貴を探す許可を・・・政宗様の真貴への誤解も解けた今・・・妻にしたいのです。」

妻・・・真貴を小十郎が?

つい、俺は咎めるような口調で焦るように言葉を紡いでいた。

「真貴の身よりは?」

息が上手く出来ない・・・

「それは貴方が一番ご存知の筈だ」

この感情は何だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。

「・・・身寄りのいない者を、身分の釣り合わない真貴を片倉家の妻にする気か?」

ここで真剣な小十郎の鳶色の瞳と視線がかち合った。

「はい」

迷いの無い意思。
それが羨ましくて、妬ましくて・・・堪らない気持ちがする。

そして俺は胸の痛みに気付かないふりをして、言った。

「お前の好きにしろっ」



知ってるさ・・・真貴は身寄りが居ない。

以前、それを辛くないかと尋ねたら優しく笑いながら、『唯一の身寄りと言ったら、この青葉城の暖かな人達です』と言っていた。

それが嬉しくて『俺も入ってるのか?』と尋ねたら、アイツが蕩けそうに優しく笑うから。

幸せだった・・・

今はお前が居ない・・・此処に。

俺の側に・・・

真貴が唯一といっていた身内を俺は城主という身分を使って、たった一言で・・・真貴から全て奪った・・・


『・・・俺にお前は必要ない、消えろっ』


決して、そんなこと無かったのに・・・

今日、女中達を罰として青葉城から追い出しても・・・
それで何に為るというのだろう?

こんなことをしても、お前は・・・帰ってこない・・・

何処に居るのかも分からない・・・

寒い、寒くて

さびしくて

さむくて

心が凍えそうだ・・・

見つかっても・・・小十郎の手を取るのだろう。
俺は・・・小十郎とは違うっ・・・
俺はお前に相応しくなんか無い!!

ぎゅっと空っぽの右目を眼帯の上から掻き毟った・・・
さびしい・・・ただ君にそばにいて欲しかったこと・・・気付くのが遅すぎて・・・




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -