百鬼夜行の目覚め
急速に京の上空に暗雲が立ち込めていた・・・
雷が轟く・・・どの漆黒の雲海の中で一人の優美な妖がふわりっと浮かんでいた。
彼の漆黒の羽織が風にはためいている。
サラリッと流れる髪をそのままに彼は蟲惑的に微笑んだ。
さぁ、百鬼夜行・・・諸共に闇の道行きを・・・
「時が来た・・・」
京の闇の主の一言に・・・神鳴りが響く。
空気が変わる・・・京の百鬼夜行が目覚める・・・主の目覚めと共に・・・
京の都の妖気が膨れ上がる。
それはまるで薄いガラスの中に灼熱の溶岩を注いだかのような胎動。
力アル者ハ畏レヲ持ッテ見ヨ
力ナキ者ハ畏レ惑エ
闇ガ動ク 闇ノ胎動
地上では結界を破られた衝撃で地に吹き飛ばされた花開院陰陽師が畏れを感じ・・・暗雲立ち込める空を見上げていた。
あの轟音と閃光は神鳴りだ・・・一瞬にして我々の結界を紙の様に突き破った・・・
そしてこの闇と妖気・・・百鬼が目覚めようとしているのが分かる・・・
確かに彼等は畏れていた・・・百鬼夜行の主を畏れていた・・・
そしてその畏れの具現者は艶然と笑い・・・
『疾く・・・・・来よ・・・・・』
ひとつ言ほぐ
雲海の上で紡がれた玲瓏な呼び声が・・・圧倒的な力で京の全ての力ある者の元に届いた。
遠く・・・響く・・・主の声
船岡山の元に封じられし天狗にも、神泉苑の元に封じられし蛟にも、それは等しく。
絶対的な声で・・・主の声が聞こえる・・・
闇が目覚める・・・百鬼が目覚めようとしていた・・・
遠くどこまでも広がる雲海の上で・・・その一人は妖艶に微笑んだのである。
遠い約束があった・・・
守られなかった想いがあった・・・
遠く、悠久の時の中で余りに儚い約束・・・
『また逢おう』
くり返し、くり返し・・・夢に見ていた・・・
くり返される儚い願い・・・
曇天の空から京の地にザアアアァァァァァアアッと雨が振り出し、神が鳴る・・・
その時を待っていたかのように、ガラスが砕け散るかのように京の力が吹き上がり・・・力ある者達は目覚める。
森深き船岡山に神鳴りが堕ち、木々が折れ、その折れた木から具現化した者が居た。
漆黒の翼が雨に濡れひかる。
頬に伝う水滴をそのままに彼は心底嬉しそうに呟いた。
「常世様・・・」
天狗の長が三百年の眠りから目覚め、彼は次々に木々の塒から目覚めた同胞を引き連れ、心捧げた主の元への飛んだのである。
また神泉苑にも雨が降り注いで、俄かに泉に流紋が立ち、その奥底からザァッと飛沫を上げて一匹の優美な獣・・・蛟が現われ出でる。
見る見るうちに蛟は白銀の青年に姿を変えると、雨が降り注ぐ空を切なく見上げた。
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