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『(以下は『下僕』と答えた方のみお答え下さい)』
「あっじゃあ答えなくて良いんだな?」
そう常世が喜んだ途端に渡殿側の襖が開いた。
「常世様、では私と黒影が答えます」
其処には蛟・白亜と天狗の黒影が立っていたのである。
白亜は相変わらず、スラッとした長身で灰の着流と袴を纏い、白銀の髪に瞳、艶麗な顔立ちは流石は神に通じる水魔である。
そして黒影は、黒の長い髪を朱紐で一本に縛り、修験者のような格好で金色の瞳、整った精悍な顔立ちで黒い翼を背から生やしていた。
「あっ?てめぇ等が答えるのか?別に俺はかまわねぇが・・・意味あんのかよ」
と最後は鯉伴に向けて尋ねる、
鯉伴は常世を巡る競争相手の乱入に警戒していたが、彼も流石で眉一つ上げて、「いいんじゃねぇか」と答えた。
『04・2:組の中ではどんな立場にいますか?』
「では私から、私は常世様の近従で、
蛟の白亜です。主に身の回りのこと、湯殿や寝起きの諸々のご用意、食事など任されております」
それに常世は興味無いと、気だるげに煙管で煙草を吸っていたが、「おい」とぬらりひょんが突いてきた。
「なんだよ」
「おい常世。
湯殿の世話とか朝の寝起きの諸々って・・・」
なんだそんなことか、と笑う常世。
「あぁ体とか清めさせたり、着物の着付けとか任せてるんだ」
だがこの事実は鯉伴にとっては我慢がならない事実だった。
「常世、どんだけ箱入りなんだ、
そんぐらい自分でやれ。」
何より、常世の肌を毎日見ている奴が居るのが耐えられない、嫉妬で殺せる。
だが飄々とした想い人は、あからさまに顔を顰めた。
「面倒くせぇだろ」
俺は朝は弱いんだよ、と云う彼に自分が可哀想になってきた鯉伴である。
だが此処は二人だけではない、さっきから此方を伺っている常世の近従が居るので、鯉伴は自身の想いを溜息一つで収めた。
それに天狗の黒影が口を開く、
「では次は俺が・・・俺は翼を持つ妖の機動力を生かして、諜報や京の偵察をしてる事が多い。
いざ抗争ともなったら、魔に堕ちた修験者の陰陽道等使えるから、妖相手にはカナリ優位に立てる。」
こんな感じですと黒影が答えると。
「次だ」
なぜか常世が仕切った。
『(04・2:貴方の組の大将についての、ぶっちゃけた感想をお願いします。』
それに黒影と白亜は顔を見合わせて、常世を見た、本人が此処に居るのだ。
「なんだ?てめぇ等、別に良いぜ、俺のことは気にすんな。」
その常世自身が笑うので、黒影が「では」と前置きして話し始める。
「一言で言うと、常世様が愛しいです」
その真面目な黒影の発言に場が凍る。
「なっっ黒影!!ふざけてんじゃねぇ!」
それに真っ先に反応したのは、立ち上がり、羞恥に頬を染めた常世だった。
それに黒影は不思議そうな顔をする。
「でも本当のことですから」
真剣に切り返されて益々頬を染める常世。
「つっ、阿呆が!」
それに仕方が無いと常世は座り直す。
だが・・・
「おい、黒影とか云ったな。
常世に手を出してんじゃねぇ」
ぬらりひょんが黙っていなかった。
だが黒影も黙っていない。
「先に常世様に手を出した、江戸のごろつき風情が俺に話しかけるな」
次の瞬間・・・ヒュッと風を切る音がして、バシッと紅の扇が黒影の額に当たった。
それに僅かに黒影が身じろぎする。
「おい、黒影。聞き捨てならねぇな・・・
易々と人を貶めてんじゃねぇ・・・ましてや俺の義兄弟になる男だ。
鯉伴への無礼は俺への無礼と心得ろ。」
常世だった。
その艶麗な顔を怒りで燃える彼。
ゆらりっと立ち上る妖気にその場の誰もが魅せられる・・・
「申し訳ありません、常世様。
嫉妬していたので・・・」
だが頭を下げ、紡がれた黒影の言葉で再び、常世の頬が染まる、
「つっ黒影、だからそれどうにかしろ」
だがそんな二人の雰囲気を鯉伴は一刀両断にした。
「次の質問へ行くぞ」
『(以下からは普通の質問です)
05:普段はどんな生活をして、どの程度人間に関わっていますか?
京の三人はお互いが顔を見合わせて常世が「じゃあ俺が」と口を開いた。
「普段は・・・普通に生活してるぜ。」
「遊んでますよね」
すぐに白亜からの訂正が入り、常世が「よせ」と囁く、
だが今度は黒影が暴露し始めた。
「飄々として女子と戯れて、風が呼んでると言っては何処かにフラッと消えて、フラッと戻ってきて。」
室温が下がってゆく・・・
それは、ぬらりひょんからのもので・・・
「おい・・・常世。」
やけに低い声で呼ばれる自分の名前に常世はその漆黒の瞳を見開く。
「待てっ、俺は二日以上、京を空けた事はねぇ・・・
てめぇ黒影、馬鹿な事言ってんじゃねぇよ!女子だってこっちが断ったら失礼だろうがっ!」
少し焦りながら答える常世が可愛いとつい思ってしまう、鯉伴、白亜、黒影。
恋は惚れた方の負けなのだ。
常世は大層もてるので仕方ない部分が大いにある・・・
仕方が無いが、やはり嫌なものは嫌で。
つい苛めてしまった。
「わかったよ、じゃあ普段はどの程度人間に関わってんだよ。」
話が変わってホッとしたような常世は悩むような素振りをする。
「・・・関わらねぇな。
京の祭り見物に出るんでも人とは関わらねぇし・・・
あぁ唯一、花開院の奴とは懇意にしてる。」
花開院の名に鯉伴が首をかしげた。
「なんで陰陽師と懇意にしてんだよ、しかも京の陰陽師じゃあ闘争が多いんじゃねぇか?」
だがそれに常世はニヤッと笑って流した。
「色々あってよ、次だ次。」
それに釈然としないながらも鯉伴は追求をそこで諦めた。
『(06:組の出入り、貴方の役目はどんなものですか?
(例:『斬り込み隊長』『他者のサポート』など)
常世はそりゃ大将だからな、と前置きして答えた。
「役目っていやぁ、色々あるが・・・
大将ってのは大きく構えてれば良いって思ってるぜ。
下が俺を支えてくれるよう大きく居れば組は動く。」
そうだろ?と同意を求められた鯉伴は嬉しそうに笑った。
考えが自分と同じだったのだ。
「そうだな、常世」
互いの漆黒の瞳がかち合う。
二人は艶然と笑い、次の質問に移っていった。
二人の親密さに不機嫌そうな二人の近従は置いてきぼりで。
『(07:自分の実力を『>』『<』で表すとしたら? 身近な妖怪を基準にどうぞ。
その質問に常世は鯉伴の手元の紙を覗き込んだ、
二人の距離が無くなり、
鯉伴の鼻孔に常世からの伽羅の薫りが広がる。
「これは書き込んだほうが良いのか?」
そう下から覗き込んでくる常世の艶麗な美貌。
漆黒の瞳に髪・・・艶のある闇のような姿・・・
ぬらりひょんはスッと手が動いたかと思うと常世の細腰を抱いて口付けていた。
チュッ
「んっ」
二人の妖が絡み合う、が・・・
「常世様!!!」
これまた二人の近従によって引き剥がされる。
「常世様に触るな!下郎が!!!」
白亜がすぐに常世を背に庇い、黒影が臨戦体制になって天狗特有の羽扇を取り出す。
だが・・・・・
「やめねぇか」
一言、響く、常世の言葉で収まった。
手で口を押さえて、僅かに頬を染めて囁く常世に三人は大人しくなった。
恋は惚れた方が負けなのだ。
「じゃあ、書き込むからよこせ、鯉伴」
そういって常世はサラサラと筆を走らせる、
字は人を現すというが、美しい字だった。
しかしその内容は・・・
俺様>>超えられない厚い壁>>ぬらりひょん>>超えられない厚い壁>>白亜=黒影
「おい・・・常世・・・」
鯉伴は如何するべきか、迷った。
二人の近従などは少し衝撃を受けている。
これは冗談なのか・・・否。
常世は、こんな冗談をする性格ではない。
「なんだよ」
艶然と煙管を吸う常世に皆の視線が集まる、
「てめぇ等は俺に惚れてんだろうが、だったら俺に勝てる訳ねぇだろう・・・
そして、てめぇ等に勝てる奴もいねぇ・・・」
これだけの惚気を堂々と言うのは常世しかいないだろう。
そんな所にも堪らなく惹かれる・・・欲しい。
恋は惚れたほうが負けなので、三人は溜息をついた・・・
『(08:個人の嗜好ではなく、血筋・種族などの問題での好き嫌いがあればお願いします。』
それに常世は黙った、これは自分というより・・・
「おい白亜、てめぇ苦手なもんあったよな」
それに白亜は「ええ」と答えた。
「神に通じる水魔なので・・・
他の妖と違って、憎悪や不浄には弱いですね・・・
積極的にそういった場所には行きたくありません。」
「まぁ俺も朝は苦手だしな」
続けられた常世の言葉に、その場の誰もが、それは少し違うと思った。
『(09:清十字怪奇探偵団、ご存じですか?』
そしてそれは次の質問の時に起こった。
鯉伴の驚愕の声が響く、
「質問の項目が消えてゆく・・・」
墨が、透明になるというのだろうか・・・
文字が目の前で消えていったのである・・・
「これはまだ答えらんねぇ項目なんだろ」
それに細かいことは気にしない常世が笑った。
「これで仕舞いだ。鯉伴、夕餉でもとっていけ。」
そして艶然と常世は笑い、襖をスパーンッと開け放つと、途端、染まる夕焼けの光が室に差し込み・・・常世は、その空気を胸一杯に吸い込んだ。
「いい闇になるぞ・・・」
そう云って振り返る彼・・・常世・・・
漆黒の短めの髪が風に流れている・・・
薫るのは伽羅の香で・・・
艶麗な佇まい・・・微笑・・・
夕闇を背景にするその美しさに、鯉伴も、白亜も、黒影も・・・
息を飲んで、恋に堕ちた・・・
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