出会いside黒影

『出会い』Side黒影

深い深い山の中で・・・

雨が降っていた・・・
冷たい凍るような雨・・・

血が・・・足りない・・・寒い・・・
雨に血が地面へと流れてゆく・・・

「殺すしかないだろう」

目の前には敵が・・・白い翼の天狗が・・・
天狗特有の武器である羽扇を取り出して・・・

俺に振り上げた・・・死が振り下ろされる・・・


『やめとけ』


その瞬間、闇が・・・場を支配した・・・
一瞬にして何も無い闇へと放り出される・・・

木々も雨も何も存在しない闇・・・

「なにっっ!!」

白天狗達は慌てるが、黒影には酷く優しい闇に感じた・・・
包み込まれているような穏やかさ・・・寒さも感じない・・・

『そんな餓鬼を殺しても何にもなるめぇ』

闇の中で声だけが聞こえる・・・低くて玲瓏な男の声・・・

「黙れぇ!!我等天狗の家々のことぞ!!」

白天狗と黒天狗の争い・・・身内争い・・・
趨勢は決まり・・・黒天狗は根絶やしにまで追い込まれていた・・・黒影も・・・

『阿呆、その天狗の長は諸共が俺の下僕になったんだぜ、』

けれどその声の主はサラッととんでもないことを言う。

「なっ嘘を申すな!!先程我等の主の勝利を確認してきたのだぞ!!」

慌てる白天狗達に声の主はクックッと楽しそうに笑った。

『そうだなぁ、でもテメェ等、白天狗の長が黒天狗の長に止め刺すとこまでは見てねぇだろ』

白天狗達は黙る、確かにそうだった。

黒天狗の長が自分の負けを覚り、息子である黒影を逃がしにかかったから、自分たちの長の止めを見ずに手勢で黒影を追って来たのだ。

「だが・・・」

丸め込まれているような気がして白天狗達は黙り込む、騙されているような気分だった・・・

何しろ天狗と言えば、京の船岡山を根城にする大妖怪なのだ・・・
その長をことごとく下僕にするなど普通は考えられない・・・

だが・・・

『丁度良い、てめぇ等の主のお出ましだぜ』

男の声がまた響いて・・・

闇はまた一瞬にして晴れ、元の場所、降り注ぐ雨と山に切り替わっていた・・・

唯一違ったのは・・・黒影の右隣に漆黒の羽織を纏った男が煙管をふかせながら立っていて・・・

彼が張っている結界が雨を弾き、地面に仰向けで倒れている黒影には雨が当たらなくなっていたのである。

そして頭上から羽音が響いて・・・

黒影の父である黒天狗の長と、敵対していた白天狗の長が二人連れ立って舞い降り・・・

直ぐに黒影の側に居る漆黒の男に跪いて礼を取った・・・

「常世様、我が息子、救って頂き有難うございます」

黒天狗の主である父が礼を払うのを初めて見た黒影は驚きの瞳で男・常世を見詰める・・・
常世はニヤッと悪童のように笑い、

「悪いが。
そこで固まってる白天狗共には、テメェ等から、よぅく言って聞かせろ。
俺はこの餓鬼の手当てするからよ」

天狗の長が諸共に礼を取っている情景を見て、固まっている白天狗達に常世は視線を投げた。

今度は白天狗の長が「はっ」と礼を取って・・・これも初めて見た。

男はフッと黒影を見下ろす。

深い漆黒の瞳に飲まれそうになる・・・

「つっ・・・」

声が上手く出ない・・・

それを察した漆黒の彼がフッと黒影を見下ろしてフワリッと笑った。

息を呑む・・・
その漆黒の瞳に艶麗な佇まいに・・・
声が出ない・・・

「大丈夫か?餓鬼?」

はい、と答えようとして、冷え切った体が動かず、ヒュウッと咽喉が鳴って、ゴホッと咳をこぼしてしまった。

「・・・辛そうだな、少し我慢しとけ」

彼は・・・常世は衣が汚れるのも厭わずに、かがんで黒影を抱き上げて。


そして堕ちてゆくような闇・・・


一瞬だった、一瞬で・・・気付くと、そこは見知らぬ邸の庭で・・・

「おい!帰ったぞ!誰か!粥を用意しとけ!」

男が一声かけただけで、数十の妖がわらわらと出てきて、我先にと動き出した。

それに黒影は驚きで瞳を見開く・・・
従える妖の数で器が決まる・・・この男はどれほどの器なのか・・・

その想いを知ってか知らずか、男は見上げる黒影に柔らかい微笑を向ける、

「よく頑張ったな、安心しろ。
もう二度とテメェ等の一族が争うことはねぇ」

その微笑に、瞳に映る自分の姿に・・・
なぜか涙があふれた・・・

血で血を洗う一族の争い・・・
暗殺と虐殺と闘争・・・

それなのに目の前の彼が笑う。
大丈夫だと、微笑む。

自分を抱き上げる暖かい腕の中で・・・争いという日常が崩壊して・・・暖かなこの腕が・・・日常になるのだと・・・

「ありが、とっございますっ」

黒天狗の長子という重責から泣けずにいた黒影は、この日、生まれて初めて泣いた・・・




貴方が俺を拾ったから・・・
俺の全ては貴方のものです。

そう言ったら「阿呆、もっと自分を大事にしやがれ」と笑われた。

こんなに優しい笑顔で優しい声で「阿呆」と言う声を俺は知りませんよ、常世様。

だけどこの想いは知られたくなくて・・・

貴方が大切なんです。
守りたいんです。
側に居たいんです。

貴方を守りたい・・・

貴方が大切で、今度は俺が貴方の支えになりたい・・・

こんな俺を貴方は「阿呆」って笑いますか?

でもそれでも良い・・・笑ってください・・・

貴方が笑っていると俺も嬉しいから・・・





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