江戸への帰還

そして刃を突き立てて・・・抗う・・・

鯉伴は京に何度も入ろうと試みて・・・その度に結界に阻まれた。
それが百を数えるぐらいになると・・・身が傷だらけになった・・・

けれどそれでも結界に向かう自身の総大将に・・・奴良組の誰も何も言えなかった・・・
京に入ることは誰にも無理なのだと・・・
言えなかった・・・


結界に刀を突き立てると、空中でガキッとかち合うのが分かる・・・

もう大量の血が滴り、妖力がそれに合わせて流出するが、鯉伴はそれに頓着しなかった・・・
ただ、陰陽師の刀を使って、同じく陰陽師の結界のうちに入ろうと足掻く・・・

けれど幾らもしないうちに結界に弾かれた・・・

「二代目!!」

一つ目鬼や牛鬼達が息を飲むが、鯉伴は手を上げて静める。
鯉伴は再び、刀を使って起き上がった。

こんな痛みは、何てことはないんだ。
アイツの、常世の苦しみ比べたら・・・

俺の心には、今も奴良組の奴等が沿っていて、見守っていて・・・

最期、アイツの心には誰も沿っていなかった・・・
最期の最後まで手を放すべきでなかった俺は最初にお前の手を突き放した・・・

アイツは独りで逝った・・・

独りで何もかも一人で守ろうとした・・・

「つっ・・・」

名を・・・呼びそうになる・・・

けれど呼ばない・・・軽々しく呼ばない・・・

お前がいないと分かっているのに・・・この世の何処を探しても・・・

居ないと分かっているのに・・・

求めずにはいられなくて・・・

京に入ることが出来たら・・・

入って何処に行けばいいのかすら分からないのに・・・

何処へ行けば常世に逢える・・・?

だが丁度、其処に低い声が響いた、

「おい、酷い体たらくだな・・・馬鹿息子」

百鬼夜行がざわめいて自然と道が開かれる・・・と牛鬼が声を上げた。

「総大将!!」

白銀の髪・・・艶やかな闇を纏う者・・・

其処には引退した初代ぬらりひょんが鮮やかな妖気を纏い立っていた・・・

江戸から飛んできたのだろう・・・

「・・・何しに来やがった。親父」

苦虫を噛み潰したかのような鯉伴の言葉に総大将は可可と笑う。

「無理だ、秀元は優秀な陰陽師・・・アヤツが昔、ワシに話した・・・妖が四百年は手出しできぬ結界を張ると・・・

アヤツがそう言ったならば・・・ワシ等が入れる結界を作る奴ではない。」

それは花開院家で堂々と食事を取り、その陰陽師と縁を持った総大将としての言葉だった。
それに鯉伴は耐え切れずに叫ぶ、

「だからこの陰陽師が使った刀を使ってるんじゃねぇか!!」

叫ばずにはいられなかった。
否定したい、京へ入れば・・・何かが変わると。

だがそんな息子の姿にも総大将は冷ややかだった・・・鋭い琥珀色の視線を投げる。

「愚か者、皆の姿を見ろ・・・オマエの願いの為に傷付いて・・・戦い抜いた。
オマエの百鬼夜行をな・・・」

そこで鯉伴はハッとする。

周りを見渡すと・・・皆が鯉伴を見ていた。

雪女、一つ目鬼、狒狒・・・牛鬼・・・朧車・・・
皆が皆、鯉伴を暖かい瞳で見守っていて。

息を飲む・・・俺は・・・なんて馬鹿なんだと・・・

けれど、どうしても常世は諦められない・・・

「俺を置いていけ。」

愚かでいい、詰られて良い。

お前を諦めない常世・・・


てめぇが好きだ。


その鯉伴の澄んだ瞳に、総大将は溜息を一つ付いて頭をガシガシとかく。

「これじゃあ、まだまだだな鯉伴・・・出直して来い。」

一瞬だった・・・総大将がヒュッと動いて・・・
そして衝撃・・・腹に思い一撃を受け、鯉伴は呻いた・・・

「てめぇ、親父・・・」

そして鯉伴の意識はゆっくりと沈んで行ったのである・・・

「馬鹿息子が・・・ワシに似ておるわ・・・どうしようも無い。」

自分の腕の中で意識を失っている息子に、かつての己を重ねて・・・
総大将は艶然と笑うと、羽織を翻したのである・・・

百鬼夜行が江戸へと帰還する・・・




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