そして京へ

日ノ本の百鬼夜行が・・・京へと押し寄せようとしていた・・・
出雲百鬼夜行が先発で常世は直ぐに黒影の天魔組と白亜の翠清組の争いを止めさせると、
京の上空に陣取る。

雨が・・・いつの間にか止んでいた・・・その夜空の下で京の百鬼夜行が幾千も浮かんでいる・・・

それに出雲の百鬼夜行の主・天逆毎は息を飲む、内輪で揉めていると聞いたが・・・一応は統率が取れていると思う。

天逆毎・・・アマノザコ・・・スサノオから生まれ出でた神であるが天狗や天邪鬼を生んだ者。
体は人、顔は狼のような獣で・・・その暴虐さを表していた・・・
まさに神に通じ・・・出雲の妖を、地を治めるに相応しい・・・荒ぶる神・・・

そのアマノザコが総大将の出雲が京を掌握に乗り出したのは・・・非常に不味い・・・
これから先、どれだけの百鬼夜行を相手にするのかは分からないのに・・・
アマノザコは強敵なのだ・・・以前争った時は、常世様が一騎打ちで勝ち、なんとか退かせた・・・

白亜がそう思っていると、顔に出ていたのであろう、

「・・・・・なんの心配もする必要ねぇ、てめぇ等には手を出させねぇ。」

空に浮かんで艶然と笑う常世・・・

だが、その言葉は本来は近従である白亜と黒影が紡ぐべきもので・・・二人は唇を噛んだ。
今、常世は戦局全体を見てはいない・・・二人を見ている・・・
これでは危ういのだ・・・前回、引き分けたが・・・どうなるか分からない・・・

そして出雲と京の百鬼夜行の主は・・・上空で距離を取って向かい合った・・・
風が吹き抜けて、常世の漆黒の髪を揺らす・・・

「よぅ、天逆毎・・・性懲りもなく、また来たのか?そんなに京が気に入ったかよ。」

ニヤリッと笑う常世の瞳には明確な殺意がある。
それにアマノザコは不思議に思いながらも、獣の口を開いた。

「馬鹿な、気に入る訳あるまい。お前も気に入らん」

天邪鬼を生んだ者であるが故に彼の言葉は全てあべこべなので、彼は京も常世も先の抗争で気に入っていたのだろう。

「仕方ねぇ、白亜と黒影を脅かす者を生かしとけねぇ・・・殺してやる。」

その言葉に、アマノザコは獣特有の細い瞳に驚きを乗せる。
この常世が、百鬼夜行の抗争を誰かの為と云う・・・たった二人の為に殺すと云う・・・
なんてそれは狭量なことなのか・・・今までの常世でないことが・・・その一言でアマノザコは察した。

そしてフッと息をつき、後ろに控える百鬼夜行に合図を出した。

「なんと面白い・・・ワシを殺すか・・・やってみるがいい」

あべこべのアマノザコの言葉と同時に出雲の百鬼夜行が動く・・・だが・・・
その百鬼夜行に向けて常世が手を翳した・・・

『闇に還してやる・・・・・深遠の闇に・・・・・』

それも一瞬・・・闇が広がる・・・出雲の先鋒の数百の妖達が一気に闇に飲まれたかと思うと・・・

がああぁぁぁぁぁぁあ!!!!ぎゃああああぁぁぁあぁ!!!!

血が舞った・・・
強大な力に体をひしゃげられて、妖達の屍が地へ落ちていったのである・・・

「つっっ!!!!」

それにアマノザコは息を飲む・・・以前とは違う・・・こんな風に一瞬で殺すようなことはしなかった・・・
妖にも超えてはならない一線がある・・・これは明らかに、それを超えていて・・・
殺戮を楽しんでいるように常世は笑っていた。

「はははははっっ!!!!見ろ!!白亜っ!黒影っ!蠢いてるぞ!!」

落ちてゆく出雲の妖達を見下ろして笑う。
明確な殺意と狂気・・・にアマノザコは分が悪いと考え直した・・・

またいつか機会はある・・・わざわざ分が悪い時に攻める必要はあるまい・・・
何より、アマノザコが百鬼夜行の列に加えたいのは、『今の常世』では無いことは明らかであった・・・

それに・・・江戸の方角から・・・百鬼夜行が来ていた・・・
もう大分前から・・・きっと常世も察しているであろう・・・

「大変満足だ・・・故にワシ等は帰らないことにしよう。」

江戸が如何出るかは知らぬが・・・挟み撃ちになれば厄介。危ない橋は渡らないこしたことはない。
アマノザコはあべこべに言葉を紡ぐと、百鬼夜行に退けと指示を出した・・・

それに常世も黒影と白亜が無事ならいいと追わなかった、
そっと懐から煙管を出し、火をつけふかす・・・

「・・・肝のすわってねぇ奴らだ」

常世は冷たく嘲笑した。
それを黒影と白亜が両隣で辛そうに見ている・・・決して嘲笑などする人では無かった・・・

知っている、抗争のあった時は必ず貴方は敵の妖達も丁寧に弔っていた・・・
『守る為に力を奮うのは・・・哀しいもんだ』
そう言った姿を・・・覚えている・・・奪ったのは・・・他でもない・・・

誰が止められるというのか・・・これは己の咎なのに・・・

数百の仲間を犠牲にして・・・出雲は此処で退いたのである・・・


そして・・・また一つの百鬼夜行が・・・

「二代目!!京の百鬼夜行です!!」

先導の鴉天狗が叫ぶ・・・
京に・・・江戸の百鬼夜行が跳梁した・・・
先頭を行くのは・・・朧車に乗った・・・ぬらりひょん、鯉伴・・・

白銀の髪は夜風にサラサラと流され、漂う色香・・・艶麗な佇まい・・・
彼は金色の瞳を鋭く常世に向けていた・・・

再び逢うとき・・・何が起こるのか・・・
遠い約束が二人の間を細く繋ぐ糸なのだろうか・・・

『また会おうな』

その無垢の願いから・・・遠い場所に来ているのだと・・・
京と江戸の百鬼夜行の総大将は気付いていたかもしれない・・・

手から零れ堕ちてゆく・・・儚い願い・・・

天満月の光が・・・京の空に浮かぶ二人の総大将を幻影的に照らしていた・・・




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -