陰陽師と鵺の約束

はら はら はら 舞う 
桜が落ちる清涼殿で・・・
花開院の陰陽師と一つ約束をした・・・

俺は京の妖を守る、陰陽師は京の人を守る・・・
明確な線を引いて人と妖の両側から・・・統率すると・・・

そしてそれが叶わなくなった時は・・・俺が『役目』を果たすと・・・
それは羽衣狐が消えたすぐ後・・・俺が何回目かになる転生を果たした夜のことだった・・・


花開院妖秘録に記す・・・羽衣狐・・・

乱世に現れ出で、人に憑く。
人に憑きしのちに身を奪い成体とならん。
成体となりし、その身を政に置き、政の中央にて念を吸う。

世に渦巻きし念、それすなわち狐の餌となりにける。

人の衣を羽織り世を乱す・・・それまさに「羽衣狐」なり。


西陣の花開院本家・・・
当代、花開院当主・秀元が月を肴に酒を渡殿で飲んでいた・・・と其処へ兄である是光が現れる。

「どうだ・・・結界核の目星はついたのか、秀元。」

是光は剃髪し、袈裟姿で月光に照らされて、立っていた。
彼から長寿を意味する菊香が香る・・・兄の言葉に秀光は笑った。

「まぁ、かなりの大物を見つけましたんや、それこそ、ぬらりひょんと並ぶかもしれませんなぁ」

何時に無く楽しそうな秀光に「ほぉ」を頷きながら、是光は「それはどういう妖だ」と尋ねた。

「平安の時代、清涼殿を襲った古の妖・・・鵺・・・と言ったらよいでしゃろな。」

その言葉に是光は笑顔になる、

「なんだと!?それはいい!鵺か!!」

かなりの大物も大物・・・甚大な妖力は神仏すら捻じ伏せると言われる妖・・・


花開院妖秘録に記す・・・鵺・・・

鵺は深山に住める化鳥なりと言われるも、その実は闇そのものなり。
頼政が討ちし鵺の亡骸は闇の如く塵となるが、その証なり。

世の念、世の闇を纏いし、その魂は滅することなく脈脈と生きにけり。

地に憑き、都に憑き、想いに憑く、故に・・・土塊に還りし処にて蘇る。
想いにつく故に物の通りを知りにしかば、鵺と出会わば礼を払いたし・・・


「これで京に結界が張れるというもんですわ」

秀光は艶然と笑い・・・月を見上げる・・・
彼、鵺と出会ったのもこのように月が美しい夜だった・・・

鵺はそれこそ大妖・・・そこら辺にいる妖とは訳が違う・・・
鵺は自身の力が完全に復活するまで体を構築しない・・・それは数百年かかるとされているが・・・

それまで待てなかった秀元は・・・陰陽術で清涼殿で死んだ鵺を・・・甦らせたのだ・・・


月がやけに綺麗な夜・・・

身を守る強力な結界陣を敷き、鵺の力を満たし体を構築するだけの有りっ丈の供物を用意して・・・
儀式は三日三晩続いた・・・

そしてそれは三日目の夜、起こったのだ・・・
闇が一点に集束していき、月光も光の粒子となって集まる・・・その宙に・・・人がいた・・・

漆黒の髪に、けぶるような睫・・・瞳を閉じている優雅な佇まい・・・
白磁の肌・・・しなやかな肢体には色鮮やかな幾重もの衣を纏って・・・

彼の周囲を光と闇がクルクルと回っているのがわかる・・・

秀元は息を飲んだ・・・魂すら吸われそうなほどに美しかった・・・

そして鵺はフッとその瞳を開いた・・・深い深い闇を灯した瞳・・・
その瞳が秀元を不思議そうに見ていた・・・

『想いに憑く故に、物の通りを知りにしかば、鵺と出会わば礼を払いたし・・・』

以前の当主が記した妖秘録に従って、秀元が礼をすると、彼は笑った・・・・・

「鵺とお見受けいたしますが、どうでっしゃろか・・・」

『あぁそうだぜ・・・人の子。』

頭に直接、玲瓏な男の声が聞こえた・・・楽しんでいるらしい彼は秀元を襲うような素振りは見えない・・・
艶然と色鮮やかな衣を纏ってフワリッと宙へ浮いている。

「君は地に憑き、都に憑く妖と聞いとります・・・京の為に・・・ボクと一つ約束をしまへんか。」

鵺は面白そうに、その漆黒の瞳を細めた・・・瞬間、秀元の目の前に鵺がいた・・・

「つっっ!」

驚きで足が竦むが、目の前の端正な顔と、交わる漆黒の瞳から目が逸らせない・・・
月明かり清涼殿の庭で・・・艶然と妖がわらう・・・

桜の花びらが舞っていた・・・それは永遠のような時間・・・

『嘘は付いてないみたいだな、お前・・・言ってみろ、まともな願いなら聞いてやらんことも無い・・・』

心が攫われそうで・・・秀元の頬をするりっと撫ぜる手・・・伽羅の香が鵺から薫る・・・

それに誘われるように秀元は京に施す数百年もの結界の話をした・・・
はら はら はら 舞う 
桜が落ちる清涼殿で・・・

陰陽師として京の人を守り、鵺は京の妖を守り・・・
明確な線を引いて人と妖の両側から・・・統率し・・・

それが崩れる時は妖が京に手出しが出来なくなる結界・・・京が妖ごと眠りに落ちる結界を施す・・・
最も多く血が流れ・・・天国にも黄泉にも近い京を・・・都を守る為に・・・

その秀元の話しに鵺は口を挟むでもなく、怒るでもなく・・・とっくりと聞くと・・・

「人の子の癖に面白い奴だな・・・良いぜ、力を貸してやる。」

と初めて声を出して、秀元の前で艶然と笑ったのだった・・・

月がやけに綺麗な・・・桜舞う清涼殿でのことだった・・・

それが鵺と陰陽師の出会いであり・・・約束となった・・・




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