嵐の前

運命は残酷なほどの早さで廻り始める・・・・・


黒影は隣りの褥で眠りに落ちる常世を見つめた、白亜と黒影を相手にして疲れきり、しどけなく眠っている主。

漆黒の髪をサラッと撫でれば「んっ」と声を零すのが、黒影を愛おしくてたまらない気持ちにさせた。

あれから何度も箍が外れて抱いて・・・今はもう夕闇が落ちている・・・

緋色の夕焼けが障子に橙の色を透かしていた・・・

そのどことなく哀惜を帯びた光を見詰めて黒影は溜息をつく・・・

遠い記憶が揺さぶられて、声が聞こえた気がした・・・

『こんな餓鬼を殺しても何にもなるめぇ』

たった一人の総大将。
ずっと出会った時から・・・大切で。

こんな風に体を重ねて自分だけの者に出来る時が来るなんて・・・考えたこと等なかった。

けれど・・・これは謀・・・

龍の毒で縛り、心を陵辱し、矜持を引き裂いて抱いた・・・常世様を・・・
こんなことは許されない、許されないけれど・・・

「黒影・・・なんだ、どうした・・・」

髪を撫でた黒影に意識を揺り起こされた常世がユックリと、その漆黒の瞳を開く、
何もかも息を飲むほどに美しい・・・
その主がゆっくり起き上がり、両手が黒影の背に回されて、もたれかかってくる。

「黒影・・・今日はてめぇが俺の禊を手伝え。」

真っ直ぐな瞳に映る確かな恋情は、作られたもの。
黒影はその端正な顔を歪めた・・・
最後に常世様が呼ぼうとした名が頭からこびり付いて離れない・・・

ぬらりひょんの名だった・・・
常世が心を捧げ、自ら重ねた時間は「ぬらりひょん」のためのもの・・・

俺と白亜は、それを捻じ曲げ・・・
この人を貶めている・・・

それが辛くてたまらない・・・

愛してる、大切で傷付けたく無い人を・・・

一番、傷付けているのは、どこまでも俺だった・・・

「常世様・・・貴方を愛してます。」

真剣に囁けば、目の前の常世様も応えて花が咲き誇るように笑ってくれる。

「当たり前だ・・・・・」

そしてそのまま抱きつかれて耳元で「好きだ」と紡がれる言葉が幸せで、哀しくて・・・黒影は唇をかんだ。

悔しさに唇が切れて、血が流れる・・・
その痛みと共に・・・黒影は心を決める・・・

始めから本当は決まっていたのだ・・・
最初に出会った時から・・・

決起を・・・おこす・・・

俺の全ての天魔組の力の元に・・・この人を取り戻す戦をおこす・・・

黒影の金色の瞳が、部屋に差し込む、夕焼けの紅に染まった・・・

京に乱が起きる・・・

庭では一際強い春風が桜の花弁を散らして吹きすさんでいった・・・・・




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -