張り巡らされた罠

声が出なかった・・・
目の前の光景に怒りで頭が沸騰する・・・
視界がグラグラした・・・

「貴方も常世様を抱けばいい・・・欲しかったんでしょう?」

言い当てられて黒影は唇を噛む、
白亜は余裕の笑みで、グチュッと真貴の身の内から自身を抜いて・・・その音がやけに大きく黒影の鼓膜に届いた。
それだけで喘ぐ常世の姿も・・・黒影の視界を焼く・・・

「つっ!貴様っ!!」

黒影は自身の欲望を押さえ込むように、
手を空中へ掲げ、妖力を集めて天狗の羽扇を取り出し、白亜と対峙した。


ずっと見つめていた・・・たった一人だけを・・・
貴方を支えるためなら何でも出来た・・・

『そなたには、そろそろ嫁を貰ってもらわんと困る』

父に呼び出されて、言われた・・・それが数十年前・・・
婚姻相手は敵対していた白天狗の長の娘・・・これ以上無い良縁だった・・・
争いの終わった両家の絆を固める上でも。

心はどうしようもないぐらい常世様のもの・・・

故に・・・

俺は・・・結婚し、子をもうけた・・・
それが黒天狗と白天狗の天魔組を治める俺の務めでもあった・・・

そして何より・・・常世様の側に・・・心置きなく居る為に・・・

全て常世様の為だった・・・
ずっと見ていた、貴方だけを・・・想っていた・・・


白亜の腕の中で朧気に俺を見る漆黒の瞳が痛々しい・・・正気じゃあない。
それなのに・・・

「こく、えぃ・・・・・」

掠れた痛々しい声で貴方が俺の名を呼ぶから。
泣きそうになる。

咽喉がなる、常世様が今、目の前に居て・・・手を伸ばせば手に入る・・・
ずっと惹かれていた・・・たった一人の俺の総大将・・・

けれど俺は・・・

『そんな餓鬼を殺しても何にもなるめぇ』

死にかけていた俺を助けてくれた・・・あの時から・・・愛に堕ちていた・・・

漆黒の流れる髪・・・ぬばたまの闇を燈す瞳・・・
白磁の肌・・・妖が惹かれる深い闇の薫り・・・艶麗な佇まい・・・

全てが愛おしい、俺の総大将

守りたい、この人を・・・だから強くなってみせる・・・
この人が安らげる場所を俺が作る・・・

「下郎が!!常世様を離せ!!!」

俺は貴方を傷付けたく無い。
白亜の想いは分かり過ぎるほどに分かる・・・けれどこんな方法では駄目なんだということは分かっていた・・・

白亜の腕の中で、白の衣だけを引っ掛けたしどけない常世様・・・
いつもの常世様じゃない。

「俺の天魔組すべての『懼』の代紋の元にお前を殺してやるぞ!!!白亜!!!!」

それに白亜の白銀の瞳が妖しく瞬いた、黒影の性格も全て分かっている・・・
そして切り札はこの手の内に既にある・・・

「出来ますか?貴方に?貴方と私が争えば鵺組は二分され弱体化する・・・それは京を狙う多くの組の侵攻と蹂躙を招く・・・」

途端に黒影は動揺し、その精悍な顔を歪めた、
身内同士で争いを続けてきた故に、黒影は闘争が起こることを酷く嫌う・・・

「つっ、貴様が常世様を放せばすむ話であろう!!」

自分が良いように言いくるめられている様な流れを脱却したくて黒影は声を荒げたが、

「無理ですね」

返ってきたのは短くも冷たい返事だった。

「なんだとっ!」

それに黒影はザワッと翼を広げるが、次の瞬間に白亜は切り札を使った、
膝に座らせていた、常世の両膝をグイッと開かせ、黒影の瞳に常世の肢体を曝け出したのだ・・・

「あっ!見るなぁ!」

常世は抗って自分のそこを黒影の瞳から隠そうとするが、それがより黒影の欲を煽る姿とは気付かない、

「つっ!!」

動きを止めて、真っ赤に染まる黒影・・・翼もビシッと固まっている。
何人もの女経験があり、妻もいる黒影でも、唯一愛した常世の体には純な反応を示す。

「ほら、常世様、先程黒影が来たせいで、イカせて上げられなかったお詫びに・・・・・黒影がしてくれますよ」

そして白亜はとんでもない事を言った。

「なっっ!!貴様!何を!!っっ!!」

もう耳まで朱に染まって、黒影は叫ぶが、常世が自身に向かって手を伸ばして来たので、また固まる・・・
黒影の咽喉がコクリッと動いた。

「来い、此処まで黒影」

吸い込まれそうな漆黒の瞳が・・・漆黒の瞳の瞳孔は金色を帯びている、金環食。
月食の金の環が妖しく黒影を捕らえる。

唯一の主が・・・快楽に染まった声で黒影を呼ぶ・・・

その手を取れば手に入る・・・その誘惑に勝てる者は居るのだろうか・・・

黒影の手からフッと羽扇が風に流れて消えた。

「常世さ、ま・・・」

声が上手く出ない、でも黒影は自分の腕を抑えて、其処から一歩も動かなかった。
必死に身の内の欲に耐える・・・だがそんな黒影に追い討ちを掛けるように白亜が再び口を開く。

「常世様、黒影は恥かしくて動けないようなので、側に行ってくれませんか?」

白亜が常世の耳朶を甘噛みしながら熱を注ぎ込む、
龍の毒に犯された常世は白亜の言葉に「あぁ」と応えると、立ち上がって黒影近付いた・・・

一歩

一歩

それは黒影には永遠のような時間・・・
何の拷問なのか・・・

目の前には、自分の唯一の人が、しどけなく白の衣を引っ掛けただけの格好で・・・自分を誘っている・・・

一歩近付くたびに息が苦しくなる・・・動けない・・・常世様・・・

そして常世は吐息がかかる程、黒影の近くまで来て足を止める、
黒影は間近に映る・・・常世の艶美な姿に息が止まりそうだった・・・

ゆっくりと・・・
常世が腕を・・・
黒影の首に回した・・・

「口付けろ、黒影。」

身のうちで箍が外れる音が聞こえた・・・




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