<■■村>act.2

妖怪や幽霊は人が恐怖心を抱いているほどに力を増す。
故に竜二はこの状況に幾分辟易していた。


クラスメイトが楽しげに携帯のラジオ機能を使って聞いたばかりの<●●村>の話をしている。
彼らが話せば話すほどに、嫌な波動が場となっているのに気付いてないことが竜二には理解できない。

そう術の本を読みながら、弁当の肉巻きを口に放り込んで竜二は眉を窓際で寄せた。
なんとも器用な事である。

「ね!花開院くんはどう思う?」

そんなことを考えていれば何時の間にか自分に話がふられていた。
何がしたいのか分からない、返す言葉など無い。
にも関わらずクラスメイトの女子がなおも聞いてくる。

「ちょっとーなんで無視なん」

友人が制止しているのに、変な奴。
煩わしい。

「ね!あると思う!?ない?それだけカウントさせてよ」

存在する、しない。
それはとても曖昧なもので。


――…兄が在ったことは世界から消えたまま。


俺は窓際から立ち上がって場所を変えることにした。弁当は殆ど食べ終わってるから手早くまとめる。
本だけ持っていけば十分だ。

そしてチラリッと目の前のクラスメイトに視線を向ける。
何の疑いもなく見てくる視線が気分を落ち着かせなくさせる。こんな風に無知にふるまう一般人が時折すごく煩わしくなってしまうのは、俺の悪い癖だとは分かっているのだが。

引き留める声も煩わしく教室のドアに手をかけた、その時、



「ねぇ確かめに行こうよ!!」



決して聞き逃せぬ言葉がした。


*****

妖の領域に入る者は心しなければならない。
そこは彼らの領域なのだ。
人の道理が通じぬ、妖の領域なのだ。

そして心せよ。

こちらが深淵を覗き込めば、深淵も同じくこちらを見返しているということを。

*****

竜二のクラスメイト達は<●●村>を見に行こうと騒ぎはじめたのことを竜二は陰陽師として止めぬ訳にはいかなかった。

「やめた方がいい」

気付けばそう言葉をかけていた、集まるクラスメイトの視線を受け止めて竜二は不機嫌に眉を寄せる。

「いいか この話は10年前にも流行した 
そして自然消滅した…時間のムダだ」

繰り返し、繰り返し重ねられる人の恐怖といった念はそれだけで力を増すというのに。
それが分かっていない一般人には言っても仕方がない。

「だいたい大学受験前にそんなくだらんことに現を抜かすから三流大にしか行けんのだ

そんなんだと大学でも遊び呆けて真面な就職口にありつけんぞ!愚民どもが」

陰陽師には学校という時間を過ごすことが許されない者もいるのだから。
竜二は本家直系男子だからこそ見識を深めることを許されているというだけなのだ。
そんな犠牲の上の平和を享受する彼らが、なぜ自ら危険な場所へ行こうとするのか…竜二にはどうしても許せないのだ。

人は大切なものはいつも無くしてから気付く。
ならば誰かがそれを彼らが手放さないように注意することも必要なのだと竜二は思うのである。

自分はもう失くしてしまったのだから。

だがそんな竜二の考えなどは伝わることは無く。
ただクラスメイト達の反感を買っただけなのは分かった。
そして運命の輪は回る。

(熱を…

おびすぎているな…)

竜二は彼らの反応を見て、ここで自身がこの怪異の調査に向かおうと思ったのである。




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