<■■村>act.2.5

風が体に纏わりつく。
柳田は逢魔ヶ刻の転寝から瞳を開けた。

この時刻は魔が闊歩する時間だから、人がこの時刻に転寝などすれば総じて夢見は悪い。
柳田からすれば、それは心地よい眠りであるが。

視線を巡らしても見慣れた座敷が広がるばかりで眠る前に柳田を膝枕していた存在はいない。

だが濃い闇の気配がにじんだ風に彼がすぐ側にいると分かっていたから、柳田は庭に通じる廊下へにじりよった。
すると柳田にかけられていた衣がスルリッと落ちて、柳田はそんな些細なことに「彼」の人らしさを見つけるのだ。

人の身に魔を受肉させ、魔を操り苦悩し、喘ぐ姿は美しい。

柳田はだんだんと彼の存在が自分の中で大きくなっていることを自覚していた。
だからかもしれない。


彼の血脈である花開院家本家が動くように百物語を語ったのは・・・


そして柳田は庭に通じる襖に手をかけ少し開け放った。
途端に視界に飛び込んできたのは、庭の石畳に佇まい、濃い闇の気配を纏わせた陰陽師の凛とした後ろ姿だった。


秀一


声に出して呼んだかもしれない。


風が疾くはやく彼と戯れるように彼を中心として吹いている。
魔である彼は綺麗だった。

漆黒の髪がさらさら流れている。
背景は逢魔ヶ刻の朱藍が混じった魅せられる様な深い空。

あぁ綺麗だ。

襖から僅かに見ている柳田の視線に気付いているのだろうか分からない。
彼に気付いてほしくて立ち上がり襖を開け放った。
途端に柳田を包むのは夕方のひんやりとした空気だ。

彼は振り向かない。

柳田には気づいてるけれど彼は振り向かない。

それでも良かったけれど、柳田は石畳に置いてあった自身の草履をはいて後ろから彼に近づいた。
そのままゆぅるりと抱きしめる。

途端に風が柔らかくなった、それが彼も柳田を受け入れているようで嬉しかった。
大分、柳田に慣れた彼がいじらしかった。
柳田より小さい彼は柳田の腕の中に収まる。

「秀一」

耳元で息を吹きかけるように声をかければ彼は僅かに身じろぐ。

「ねぇ…秀一」

僅かに耳を食みながら囁く。ぴくりっと揺れる秀一の体に、このまま乱暴に血肉を食い散らかしたい欲望が湧く。

でもそんな勿体ないことはしないし、秀一の方が魔が強いから不可能だ。
これから共に何十、百年の年月を重ねるに値する存在なのだから。

「…花開院本家が動いたよ」

その瞬間、柳田の腕の中で震えた体をますます掻き抱いた。

「…な、ぜだ」

苦悶する彼の絞り出すような声に柳田は目を細めてクツリッと笑う。
もう彼は分かってるのだ、本家が動くということは怪異が本物であり、それが…誰の差し金によるものなのか。

「だって君は僕のものだろう」

ピチャリッと耳を舐めると彼は柳田の腕の中で震える。

「花開院家の…弟を気にする君は見ていて不愉快だから哉。」

冷酷に笑う柳田の主張に納得いかなかったのだろう秀一は柳田の腕を振り払うと、柳田を振り返って正面から見詰めた。

「俺は!花開院家の人間だ!!」

「嗚呼」

そうだねと頷く。

「妖として力は貸すと言ったのに約束を違えるのか、花開院家を妖の争いに巻き込むなっ」

柳田の胸蔵を掴んで怒る秀一に柳田は妖しく微笑んだ。
全然わかってないね、秀一のこの態度が花開院家を巻き込む一因になったのに。

ことある毎に垣間見える花開院家、実弟への思慕、その全てが柳田には不愉快だったのだ。

柳田は胸倉を掴んでいた秀一の手を両手で握ると、そのまま顔を寄せた。

「つっっ」

(気付くのが少し遅かった哉。)

やおら唇を奪った。
初めてでもないのに未だ慣れない秀一の口を舌で割りクチュッと深く犯す。

「っんぅ」

上を舐めると秀一の体が快感に震えたのが柳田には分かった、唾液が絡まる。
互いの息があがってゆく。
どれぐらい蹂躙したか分からないぐらい口付けて秀一の体から力が抜け落ちると柳田は口付けをやめて最後に下唇をぺろりっと舐めた。


フゥッ


互いの息を吸い込む音が淫靡だと思う。
腰が砕けてくったりと体を預けてくる秀一を支えるように柳田は腰に両腕を回した。
薄紅に頬を染めた、いまだ人間の理性のまま漆黒の瞳で見上げてくる秀一に柳田はクツリッと笑う。

その淫蕩した姿に前々から考えていたことを・・・実行しようと思った。

柳田が抱き上げても秀一は抵抗しなかった、それを良いことに柳田はそのまま屋敷に戻る。

「柳田」

声で制止されても柳田は止める気はない。
草履を脱いで、そのまま屋敷へ上がり、襖を不作法に足で開け放って部屋に侵入した。

そして先程まで柳田にかけられていた掛け布に秀一を降ろす。

「お前、足で襖を開けるな馬鹿者」

いささか秀一に呆れられても気にしないで、肩をすくめて今度は手で襖を閉める。

「別に良いじゃないか、ボクだって何時もいつも行儀が良いわけじゃないんだ」

「それは知ってるが」

間髪なく肯定されて柳田は拗ねた心持になる。

「…否定してくれない哉」

秀一と一緒に暮らしているとこういった些細なことで心が和むから不思議だ。
妖怪の自分が、大妖の秀一に和ませられている事実が面白い。

思わず、意図せず笑っている柳田を秀一は半身を起こして見つめている。
秀一の人の理性を抱いた漆黒の瞳も好きだけれど、妖の本性を出している真紅の瞳も柳田は好きだった。

だからこそ秀一を徹底的に堕としてしまおうと酷く凶暴な慕情で思う。

そっと身を屈めて柳田が秀一の肩に手をやり押し倒した。
そもそも秀一は無防備なのだ。

「柳田っ」

慌てたような声音。
柳田は嫣然と笑って、そのまま秀一に口付けた。

「ぁっ」

口付けの合間に聞こえる声が柳田を煽る。
一目見た時から自分のモノにしたかった、共に時間を過ごすうちに独占欲が湧いた。

血の絆など、必要ない。
君にいるのはボクだけでいい。

口付けながら脇腹を撫でると薄く開いた口に舌を差し込んで絡めると水音がした。
そのまま舌を吸い、絡め取り、翻弄しながらも手で愛撫する。
男の体は刺激すれば反応する。

「やめろっっぁっ」

鮮やかな欲情に染まった声。
こんな時でも秀一の声は凛として涼やかだ。
好ましい、好ましい、食べてしまいたい。

そのままどれくらいの時間がたったのか、互いに、にっちもさっちもいかない位、欲望は高まっていた。

そもそも柳田はこれが狙いであるのだけれど。

秀一は荒い呼吸で柳田を見上げてくる。
その紅とも漆黒ともつかぬ夕暮れ時のような瞳の色に柳田はぺろりっと自分の舌を舐めた。

もうボクは十分待った。
もういいだろう?

「『君はボクのモノだよ』」

言霊を場に響かせる。

「っつ」

けぶる様な睫毛が震えているのが綺麗だと柳田は思う。

「『ボクの血で目覚めた君はボクの手の上の妖』」

だが一瞬の後に鋭い眼光で柳田を射抜いた秀一に、こうでなければと思うあたり、どうしようもないなと自分でも思う。
惚れぬいてる。

「『ボクのモノって言って御覧』」

「柳田っ」

切羽詰ったような声。
言霊を縛ることも柳田は出来るから秀一が言葉を紡いだら二人の繋がりはより強固なものとなることを知っているのだ。

「うん?」

酷く荒い呼吸音。

「お前が俺のモノでいいだろうっ」

噺家に抗う妖力に柳田に笑った。
でもそれじゃあ駄目だ。
全然足らない、君が足らない。

「『僕が君のモノなら、君も僕のモノだ』」

そっと顔を引き寄せて耳たぶを甘噛みして囁けば震える体を掻き抱き、しゅるりと帯をほどいて曝け出されるしなやかな体から衣を全て取り去る。

「やめてくれ」

弱い抵抗を抑え込み、柳田は自分の唇を噛みきった。

「っ柳田」

血に反応して急速に秀一の瞳が真紅に染まってゆく様が綺麗だった。

「『君はボクのモノだ』」

そして柳田は血に濡れた口付けをした。
そして血をピチャリッと舐めとった秀一は妖の本能には抗えず自ら柳田の首に腕を回す。
舌が絡まる。

「っんっ」

血を吸って陶然と酔った秀一の下肢へ柳田は手を伸ばす。
そこには反応している秀一自身があって直接梳けば、咽喉を無防備に晒して秀一は喘いだ。

「あぁっ」

数回梳いただけで達して幾分ぐったりと力を抜いた秀一の米神に柳田は口付けた。

「君は温室育ちだから快楽に弱いね」

揶揄しながら、そのまま精を指に絡めて後ろへ持っていく。くちゅりっと指で犯した。

「くぅっ」

幾分辛そうにする秀一に頓着せず、性急に幾分か奥にある一点を引っ掻けば、秀一は柳田の腕の中で跳ねた。

「ぁっんっ」

そこをグチュグチュと重点的につく。その度に喘ぐ秀一の無防備な首筋を柳田は舐めて愛撫した。




そして大分ほぐれた時には柳田も秀一の痴態に反応していて、互いに欲望が高まり呼吸が荒く、もはや止まらないということが分かっていた。

柳田は自分の衣も脱ぐと、秀一の足を胸まで曲げ、自分の熱を秀一のそこへ当てる。

「っっう」

その質量に喘ぎながらも逃げようとした秀一を上から抑え込んで、柳田は微笑んだ。

「逃げるのは許さないよ」

そして秀一の腰を掴んで、

「『君はボクのモノだ』」

グチュリッと言葉と共に犯した。ヌチュッとイヤラシイ音をたてて柳田のものを食む秀一の中は淫靡に蕩けて、仰け反る咽喉が白く無防備に柳田の前に曝け出されて美しい。
そして緩急をつけて柳田は秀一を責め苛んで、喘がせた。

「ふぁっぁぁぁぁっそこぉっやらぁっぁあぅっ」

弱い前立腺を擦ってやれば涙を零してイイ声で鳴く。
何十分もそこばかり擦ってやれば、触らなくても秀一は白濁を零した。
快楽に蕩けて訳が分からなくなっているところに柳田は犯す手を緩めることなく囁き続ける。

「『君はボクのモノだ』さぁ言って?」

そしてグリグリっと奥を掻き混ぜれば秀一は目を見開いて躰を震わすと…陥落した。

「あぁっんっ『オレはっぁっ柳田のモノっ』はぁっ」

そう秀一が言った瞬間に柳田と秀一の間が言霊で強く結び付けられる。
それは言葉を扱う柳田だからこその術で相手の心身を縛る。

「フッよく出来たね、ご褒美として沢山なかに出してあげるよ」

蕩けるなかの締め付けはいやらしく柳田を誘い、

「ぁぁっんっはぁっ」

そして男が女にするように、奥の奥にグチュグチュと欲望を突き入れて、中に種付けした。
ドクドクドクッピュルピュルッと中に染み渡る男の精を最後までグッグッと塗り込められて…秀一は女のように淫靡に息をはく。

その目は真紅に染まり、快楽で脳髄が蕩けた表情ですこし笑っていた。
妖として妖と交わり、彼はたしかに…夜のイキモノだった。


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