竜二の兄zct.2



いつの間にか寝ていた。
竜二はふっと意識を眠りの淵から揺り起こした。
目線だけを動かして、此処が兄の部屋だと認識する。

兄は・・・まだ起きていた。
真剣に机に向かって書を読んでいる。
襖から入ってきた優しい風がふわりっと兄の漆黒の髪を流す。

夜・・・燭の明かりが揺れ、端正な兄の顔を幻想的に照らしているのを竜二は寝惚け眼で、布団の中から見ていた。

その真剣な横顔を見ていた。

蛍光灯だと竜二が眠れないだろうと、兄はわざわざ燭台を引っ張り出してきたらしい。

竜二はそこでふわりと笑った。

いつも優しい。
まだ、寝ないのだろうか。
もしかして自分が兄の布団に陣取っているから寝られないのだろうか。

と、思っていると兄はそこで、フッとこちらに視線を流したと、思わず竜二は目をつぶる。
見ていると思われたくなかった。

机に頬杖をついて竜二を見た兄は、弟が見ていたのを気付いていたのかいないのか、柔らかく微笑む。

「俺も、もう寝ようかな」

そう玲瓏な兄の声が、竜二の耳に届いた。
次に衣擦れの音、畳を歩む兄の足音。

ゆっくり布団がめくられて、兄が中に入ってくる。

途端に香るのは、焚き染められた菊の香。
兄が好んで使う清廉な薫り。

「おやすみ、竜二」

その薫りに包まれて、何故か竜二の胸が熱くなった。
この時間がずっと、ずっと続けばいい。

そう願った・・・




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