ACT.弁慶
細い…死神の鎌のような月が暗く濃い藍の穹にかかっていた…
誰かの命を切り取るのを待っているのだろう…
それは…きっと僕…
誰かが自分の内側に入り込む…それは冷えた氷が身に投げ入れられるようだった…
特に相手が『怨霊』ならば…その血に染まった思考に自分が絡め捕らわれそうになる…
…怨恨…猜疑…殺意…憎悪…そして…悲嘆…
なんて哀れな存在…生ある時は鮮やかな『想い』を知っていただろうに…それを失って…
…感謝…信頼…友愛…喜悦…そして…愛情…
ありとあらゆる…光に満ち満ちた『想い』…それを忘れるなんて…僕には出来そうに無い…
それに僕には何者にも汚されない僕の『想いの在処』が在るから…大切で…唯一の場所があるから…
彼女が居るから…
僕は死ねる…きっと笑って逝くだろう…
こんなに罪深く…幸福な生は無い…
ただ彼女を傷つけた事だけが…
僕の…最期の罪……
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