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会議室の騒ぎに紛れて微かな音だったが扉の向こうで、足音がした。
それにサッチは笑う。
はたして予想通り、暫しの後に開かれた扉の向こう側には、マルコが普段と変わらない様な佇まいで立っていた。
部屋の中で開催されている「腕相撲大会」を見て眉を寄せる。
「何やってんだよい」
その言葉にサッチは今、マルコに気付いたとばかりに言葉をかけた。
「おぉマルコ!エースが腕相撲大会してぇって言うもんでよ!」
決してそんなこと言ってないエースは首を振っている。
だがマルコは、そんな言葉も聞こえないのか、サッチを見て固まった。
「・・・サッチ?」
あぁまた、俺は。
泣きそうになる。
血に塗れたサッチの姿がだぶる。
目の前のサッチは息をしているというのに。
「マルコ?」
普段の様でいて普段と違うマルコにサッチは気付いた。
どこをどうとは言えないが気を張っているのが分かる。
だがマルコはサッチが声をかける前に、フゥッと溜息をついて自身を落ち着けると、「席に着きなよい」と皆に言葉をかけた。
そもそも腕相撲大会はサッチなりの気遣いだった。
オヤジと二人で話しているというマルコを気遣って、エースをからかう事で時間を稼いだのだ。
待たされると人は不機嫌になる、他の隊長たちの機嫌も考慮していた。
マルコは、それが分からない程、浅い付き合いでもない。
けれど有難うと敢えて言わなかった。
サッチはこういう気遣いをしたと言葉に出したりはしないし、指摘しても自分が楽しいからやっていると言う。
けれど皆がそんなサッチの気遣いには気付いていた。
言わなくても分かっている信頼がそこにはあった。
その暖かさがマルコは嬉しかったし、サッチの気遣いが切ないぐらい懐かしかった。
そして思い出す。
いつも兄弟は優しい。
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