陽光が暖かい甲板の上で、大きな手に縋って泣きじゃくっている自分が幼子みたいで馬鹿みたいだ。
こんな醜態をさらしているのに受け止めてくれるオヤジに安心しきってしまう。

頭を優しい手付きで、ゆっくりと撫でられる。

その生きている優しい温度に、幸せで涙が溢れてきて、グラララッと懐かしい笑い声にまた泣けてくる。
もう二度と聞けないと思っていた声だ。

「泣きたい時は泣けいっ、息子!」

俺は、この人に敵いっこない。
それを俺は分かっていた。



あの絶望の時、
マリンフォード決戦でオヤジが死んだ後は、白髭海賊団の全てを俺が取り仕切った。

オヤジとエースの亡骸を新世界に赤髪と弔ったのも、その後の傘下の海賊団達の身の振り方も。
負傷者達の手当て、モビーの代わりとなる新しい船の手配。

失くしてしまった大切なモノを振り返ることも出来ないぐらい時が忙しなく動いていって、でも胸には大きな穴があって。


そんな俺を頓着せずに、周りは俺を皆、頼った。

いや、皆も俺を気遣う余裕なんて無かったんだよい。

オヤジという親を、エースという兄弟を亡くして、自分たちの無力さに打ちひしがれて。

一番隊長として俺は白ヒゲ海賊団の立て直しをしながら仲間の精神的な支柱になっていった。
来る日も来る日も、朝から深夜になるまで仲間が俺に頼ってくる。

『マルコ隊長!これからどうしましょう!?』

そんなの俺にだって分からないよい。
なんて答えられない。

『騒ぐんじゃねぇ、俺が引っ張ってやる。あとは自身で考えろよいっ』

一人一人が考えなければ、『白髭』は立て直せない・・・四皇のカイドウもオヤジの死に乗じて動き始め、オヤジの領地だった場所が次々と海賊達に襲われている。

オヤジがいて当たり前に出来ていたことが出来なくなって。
俺たち息子は病身のオヤジに守られていたんだと突きつけられる。
病でもう長くないと分かりながらも俺たちを守っていてくれたオヤジの優しさを知る。

強くなったつもりだった、大切な家族を守るために強くなった。
けれど自分達はこんなにも弱い。

オヤジを喪った心の傷は深くて・・・皆が墓石へ花を手向けながら慟哭するのだ。

『オヤジィ!!』

『エースッ!!』

哀惜を叫んでいる「家族」達を見ながら俺は皆と一緒になんて泣けなかった・・・
否、俺は泣くなんて許されなかった。

俺は白髭海賊団一番隊隊長・不死鳥のマルコ。
皆が俺を頼る。
そんな俺がどうして泣くことなど出来ただろうか?
俺には家族たちを鼓舞することを言外に求められていた。

『しゃんとしねぇかよい!!』

泣きじゃくって前に進めない仲間を一喝する。その檄に反応して俺を見る仲間達に言葉を続けた。

『俺達は誰の息子だ!?俺達は誰を誇りに刻んでる!!』

俺自身の胸に刻まれた誇りを叩き、鼓舞するように不死鳥に変幻して、空に飛び立つ。
途端に上がる歓声に乗せるように、空の上から何千という仲間を恫喝する。

『俺たちは血が繋がってねぇ!!けど兄弟だ!!
絆で繋がった兄弟をオヤジは遺してくれた!!
オヤジの遺志を継いで新世界で俺達は人を守りながら生きぬくんだよい!!』

その声に応える様に、歓声がドッと沸く。

『マルコ隊長!!!!』

上がる歓声に、俺は・・・自分だけが取り残されたように辛かった。

同格の筈の、他の隊長も俺に敬意を表す。


人の上に立った俺に。


俺を見守って包んでくれてたオヤジも、隣りで和ませてくれた親友のサッチも、愛しい弟と想うエースも居ない・・・

ひとり、オヤジの代わりとして皆を引っ張りながら・・・家族が居るのに感じる寂しさに自分の心根の貧しさも感じて、日々、凍えていった。

辛いと言えばよかったのだろうか?

でもそれは許されなかったんだ。


長い長い絶望の日々が思い出された。

それなのに今、陽光のモビーディック号で。
オヤジが此処にいるだけで、頭を撫でられているだけで。

しあわせで。

それだけで良くて。

この人の前で片意地など張る必要なんかなくて。

俺の中の寂しさも、物思いも、全部、全部が氷解していくんだよいっ!!


「っ!オヤジィ!!つっ!!」


子供みたいに泣きじゃくって、安心して。

幸せは此処にあるから。

俺は、この人に敵いっこないんだよい。
子供は親には勝てないんだよい。




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