ここを真っ直ぐに歩んで、右に曲がると直ぐに大きな甲板に出るんだ。
そこは飛びきり陽光が暖かくて、潮騒が柔らかく聞こえて「その人」のお気に入りの場所で。

グラララララッ


声が聞こえる、笑い声が。
もう二度と聞けないと思っていた声だ。
それだけでマルコは泣きそうになった。


否、泣いていた。

自然と足が早くなって曲がる頃には駆けていた。

「マルコッ」

後ろのエースが慌てたように声をかけるのも、気にならないぐらい心臓が早鐘のように煩い。

曲がった途端に見えた、ベットに座した大きな姿にマルコは叫んだ。


「オヤジィ!!!」


海賊旗のモデルになった白い髭。
頭には黒のターバンを巻いて。
顔には年月を蓄えた皺が刻まれている。

マルコを瞳に映して、オヤジが「グララララ」とその特徴的な笑いを浮かべた。

そして、どこまでも優しく呼ばれる。


「息子よ、どうした?」


息子と、呼んでくれる。
この海で嫌われ者、爪弾き者だった自分を懐深く迎えてくれた言葉。
自分に居場所をくれて、無条件に愛情を感じる言葉。

息子

それがどれだけ有難い言葉か、俺は知ってるよい。

涙が止まらない。

死んでしまった大切な人が目の前にいる。

その大きな手を差し伸ばされる。


「オヤジィ!!!」


まろぶようにマルコは駆け、看板をけり僅かな距離も待てないで不死鳥に変幻して、飛び。

その膝元に降り立つと、自分の「親」の手を両手でシッカリと握り締めた。
その手の温度は切なくも、ひどく暖かった。
SIDE・A


エースは驚きで、その場から動けなかった。

マルコが泣いてる。

オヤジの手に縋って号泣していた。

マルコが泣いてるのを気を使って、オヤジは空いてる右手でサッと人払いをして、周囲にいたクルー達も、ナース達も下がらせる。


皆が去ってゆくなか、俺は甲板を見渡せる曲がり角から、一歩も動けないで居た。


オヤジがチラッと見るけど、一瞬の後に暖かく笑う。

俺はどうやら居ても良いらしい。


マルコの嗚咽と震える背が俺の瞳に映る。


「オヤジィ!つっっ、うぅっオヤジィ!!」


マルコが泣くことがあるなんて思ってもみなかった。


それもあんな風に、衒いも無く。


マルコ、どうしちまったんだ?
今日はどことなく可笑しかった。
目が覚めた時、俺を見ても泣いていた。

でもその弱さが、俺の胸に暖かく広がる。


マルコ


一番隊隊長として、白髭海賊団古参のクルーとして常に張り詰めたように、けれど飄々と仕事と戦闘をこなす姿しか見たことが無い。


けど俺がそうなように、マルコにも心の柔らかい場所があるのだ・・・
俺がオヤジに預けた心の場所。
マルコがオヤジに預けている心の場所。

似ているんだ、俺達はやっぱり兄弟だと想えば、こそばゆい想いと共に納得できて、俺は泣いてるマルコをオヤジと二人っきりにして、隊長達の待つ部屋へ踵を返した。

マルコの午前中の仕事は全部休みになったと伝えに行く為に。




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