走馬灯
闇に燈る街灯のような暖かさを感じながら、走馬灯を見た気がした。

『俺、マルコが好きだ』

あれは何時のことだったか正確には覚えていないけれど。
モビーディック号で開かれる、いつものような宴会で皆、飲みに飲んでいた。

けれどエースが紡いだ言葉は酒の席で言うには真剣な声音だった。
潰れるようにして飲んだ、この弟に肩を貸して立たせた時、囁かれた言葉。

向けられた顔の黒曜石の瞳が、真っ直ぐに俺を映している。


本気だ、本気だと一目で分かる。


その想いを・・・


『俺も好きだよい』


笑って流し、俺は聞かなかったことにした・・・あの時はそれが最良だと思っていた。
否、真剣に考えなかった。
男と男なんて障害が多すぎるし、同じ船に乗っていて話がこじれたら厄介だから。

告白すら、あっさりと無かったことにした。

それを後悔するとも知らずに…運命はあの日へ繋がってゆく。

走馬灯の画面が切り替わって、荒涼とした戦場が広がる。
夥しい死体と血と、足元が崩れ落ちそうな絶望。

「マリンフォード頂上決戦」

そこで喪ったものの大きさに足が竦んだ。
自分で自分の弱い心を叱咤しなければ、すぐ涙が出そうになった。


「家族」として「親父」の遺体を収容するのと、時を同じくして「エース」の遺体も収容しなければならない。
俺がエースを収容すると皆に言うと、皆は譲ってくれた。
近づくだけで手足がガクガクと震える。

間近まで来て、しゃがみ。
俺はそっと冷たくなった体を抱き上げた。
冷たすぎる温度に泣きたくなる。

血にまみれた体は傷付いて痛々しい。
それなのに彼の顔は穏やかに微笑んでいて・・・やるせない。

なんで自分より若いエースが死ななくちゃいけなかったのか。
俺は、自分が見送られるものだと思っていたんだよい。
知らずマルコの頬を雫が伝った。


『好きだ』


この「弟」から告げられた時、紡がれた言葉に心が動いたのは確かだったのに。


「俺は・・・っ」


エースを・・・どう思っていたのか。

考えなかった。
告白すら無かったことにした。

こうなってから考えるなんて愚かだよい。


エース


涙が止め処なく溢れる。


『マルコ!!』と呼ばれて屈託のない笑顔を向けられて手を伸ばされる。


あの瞬間、確かに幸せだった。
(そんな当たり前のことを幸せと思ってなかった)

声が聞きたくて、堪らなくて。
(でも二度と聞くことは出来ない)

抱き締めたくて、堪らなくて。
(生きていた時にお前を一度も抱きしめたことなど無かった)

満面の笑顔で名前を呼んで欲しかった。
(そんな些細なことが幸せだった)

それが叶うなら何でもするのに。


「・・・好きだよい」


昔の告白に、そう返事をした。
もう誰も聞く人のいない言葉を、そっと口の端に乗せる・・・

そしてマルコは冷たくなったエースの体に熱を灯すように強く抱きしめた。

走馬灯はそこでプツリと切れる。




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