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照れた笑顔の、
一番隊隊長として自分のことより白ヒゲ海賊団全体のことを優先させてきた。
それが苦じゃなかったし、兄弟からの信頼はいつも優しく俺を包んでいた。
でもたった一つ。
大事なことを知った。
エースをオヤジをサッチを喪って。
一瞬は過ぎていくのだということを。
一瞬、一瞬。
俺がエースと笑った瞬間。
サッチと一緒に昼飯を食べてる瞬間。
オヤジと酒を酌み交わした瞬間。
その一瞬は終わる。
そしてそれは、もう二度と戻ることはない。
いつかやりたいと想っていたことを先延ばして後悔する前に。
俺はしたいと想ったことを、素直にしようと想った。
モビーが今回、上陸したのは秋島。
火山活動が活発的で温泉があちこちにある。
マルコは幾分緊張した面もちで白ヒゲの前にいた。
「オヤジ、今回の島は温泉があるんだよい。
オヤジも一緒に皆で一緒に入らねぇかい?」
白ヒゲのみならず、白ヒゲの周りにいるナース達の視線もマルコに集まる。
沈黙。
マルコは無理だろうなと想って…そして。
「グララララッ、せっかくの息子の誘いだ行こうじゃねぇか!」
「っ!」
マルコは驚いて思わず、白ヒゲの足下に駆け寄って、その大きな手を取っていた。
「本当か!オヤジ!」
笑みと共に、ゆっくりと頷かれて、マルコはじわりじわりと嬉しさが込み上げ、満開の笑顔を浮かべた。
「有難うよい!!」
そしてマルコが去った後に、ナース長が白ヒゲに提案した。
「船長、体調は…」
思わしくない、それは白ヒゲ自身が一番良く分かっているのに。
白ヒゲは年月を蓄えた皺のある目尻を細めた。
「野暮なこと言うな、あの笑顔だけで充分の価値があるじゃねぇか」
そして白ヒゲは尚も笑う。
嬉しそうに。
息子が他愛もない頼みごとをしてきたのだ。
他愛もない、けれど暖かな願い。
親子、皆で温泉。
「俺の体調は息子の笑顔一つで良くなるんだ」
そして白ヒゲは思い出して、また微笑む。
幾分照れたように笑った「息子」の姿を。
いつもは自分の願いを押さえ込んでいる「息子」。
自分自身で押さえ込んでいることにすら気付いていなかった「息子」。
それが少しずつ自分の願いに素直になっているのが良い傾向だと想った。
なぁ、マルコ。
END
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