『また夏が来て』


遠く、一人、過去にやってきた。
マリンフォード決戦が記憶に焼き付いている俺が今、オヤジもサッチもエースも生きているモビーに乗っている。

「おーい!マルコ!!」

夏島が近く陽光も眩しいモビーの甲板の上で、エースが大きく手を振りながら俺を呼ぶ。

「今、行くよい!」

一日が楽しくて、海が優しい。

幸せで、それで不意に思い出す。

喪った者の大きさに心に大きな空洞が出来てしまった日々を。

その日々を知っている俺が今、この幸せな時間を過ごしていると、何か情景がだぶって辛い。

でもエースが笑う、鮮やかに。

「マルコーー!!」

だから俺は。
エースの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。

「なっにすんだよ!」

噛み付いてくるエースに笑みが自然浮かぶ。
昔は頭を撫でたことなんて無かった。

柔らかい髪を何度も何度も撫でる。

「前はマルコ、俺にこんなことしなかったじゃん」

頬を膨らませて幾分照れたように言うエースに俺は笑う。

「したいと思ったことはしようと思ってねぃ」

出来なくなる前に。
エースを大切にしたい。

「俺はエースが好きだ」

大切とちゃんと伝えておきたい。
伝えられなくなる前に。

みるみる瞳を見開いて、でも照れて嬉しそうに顔をそむけて、

「マルコなんか変だ」

いいや変じゃない。
ただ伝えようと想っただけ。

「あぁ覚悟しとけ」

これからもっともっとお前を甘やかしてやるから。

「取り合えず、一緒に飯でも食うかい?」

こんなことすらエースとあまりした事が無かった過去の自分が居たから。

そしてエースが一瞬の後に太陽のように笑う。

夏の太陽にも負けない、その笑顔に。

俺は幸せだと想うんだよい。

END




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