◎忘れていたこと 心結side


赤也くんと一緒に歩き始めて大体20分くらい。まだ半分も見ていないけど動物園でしか見られない様々な動物を見て、既に私はとても楽しんでいた。


「あのー心結さん。そろそろ、その…」
「…あ!はいはい、そうだね!そろそろ合流しよう!」


私はそう提案したけど、よくよく考えればお前が言うなって話だよね…私がまさに怒って赤也くんを無理矢理連れてきてちゃったんだし。それでも赤也くんは私の答えを聞いて、にこっと笑顔を見せていて。なんというか、いい子だよね赤也くん。きっと小春と動物園を回りたくて誘っただろうに、まさに怒っていたとはいえ申し訳ない事しちゃったなぁ…。


「結構離れてたんすね」
「小春歩くのゆっくりだからね」
「あ、そうなんすか?」
「うん。さっき歩いた時思わなかった?」
「んー、特に何とも」
「そっか…」


小春は人よりもゆっくりペースなはずなのにいつも人に合わせてくれる子だから、そうやって自然に合わせてくれる人に隣りにいて欲しい。赤也くんはキョトンとしていたけど、私はそれが嬉しかった。


「心結ー、赤也くーん!」

「おまたせしましたぁ」
「思ったより離れててびっくりしたよー」
「ね、私もゆっくり見てたのもあるし、ごめんね待たせちゃって」
「ううん、気にしないで!…あ、まさ!」
「ん?」


私はまさの名前を呼んで隣りに並び、赤也くんと小春を2人並ばせる。赤也くんには、恩返しと罪滅ぼしのつもりです。


「どしたの?」
「えへへ、まさにこしょこしょ話だよ」
「ふふ、そっか。じゃあ赤也くん、少し先に行こう?」
「あ、はい!」


そう言った嬉しそうな赤也くんの顔。私の隣りではそんな顔はしていなかった気がして、尚更申し訳なく思う。
2人が先に歩き始めたのを見て、私はまさに顔を向ける。


「じゃ、私達も一緒に行きましょう!」
「あれ、何も無いん?」
「さっきのは赤也くんと小春を2人きりにする口実だよ」
「…ふーん」
「えへへ、付き合ってくれてありがとうね」
「ん。それより、次の猛獣コースは大丈夫なん?」
「猛獣コース?なんで?」
「…何でもない」


まさはそう言って、スタスタと先に歩き始めてしまう。んもう!足の長さを考えて歩いてよね!あっという間に赤也くん達に追いついたまさに、ようやく追いついた私。


「あ、心結!見てみて、ヒョウだって」
「わー、かっこいい!けど!」
「お昼寝してるのかな?」
「ね、暑いからかなぁ」


私達が見ているヒョウは、暑いのか日陰の地面に寝そべって寝ていた。


「なんか、仁王くんってヒョウと似てない?」
「えーまさ?」
「そうそう」
「…暑いのが苦手なところだけじゃない?」


私の発言を聞いて、赤也くんはプッと吹き出す。だって、獲物を見つける鋭い目や餌を狩るような獰猛さなんかはまさには絶対無いと思うもん。


「そういえば、ここってホワイトタイガーがいるらしいっすよ」
「えーすごいね、珍しいよね?」
「うん、きっと珍しいと思うよ!この動物園の目玉みたいだね」


小春は周りを見渡しながらそう言った。確かに周りの人達は、先へ先へと急いでいるように見える。なるほど。そういう理由があったのね。
ヒョウから離れて、ライオン、オオカミと続いていよいよ次がホワイトタイガーの番!わくわく!


「すごい!本当に白いね!」
「そっすね、すげーかっこいい!」
「心結と仁王くんも初めて?」
「……」


どこかで見たことがある気がする。テレビとかじゃなく、このサイズ感で。でもなんだろう、他の動物園でいるところなんてあんまり無いはずなのに…。


「俺は昔来た時にあるぜよ」
「あ、それもそっか。でもすごいね、小さい時に会ったらこんな衝撃ないよね!」
「俺、普通の虎でもすげー衝撃的だった覚えあるっすもん。ましてやこの神々しさだと衝撃すごそう」
「私もきっとそうだっただろうなぁ」

「…そろそろ先に行かんか?」
「あ、そうだね。後ろ詰まってきてる…心結ー?」


3人が話している間、のそのそと中を歩く話題の中心をずっと見ていた私。何か思い出せそう…!


「心結、赤也達先に行ったぜよ」
「んー」
「…しょうがないのう」
「あ、ちょ!」


呆れたように言ったまさが、私の手を握って歩き出した。
あ、れ…?


「あ!」
「ど、どうした」
「私、ここに来たことあった」
「……」
「小さい時にまさと一緒に!」
「……やっと思い出したか」

「私さ、初めて見た衝撃で怖くてびっくりして泣いちゃったんだよね?」


そうそう、びっくりして泣いちゃってそれで……ん?それでどうなったんだっけ?まさが隣りで一緒に居てくれたのはわかるけど、どんなに考えてもその先のことは思い出せない。私の発言はそこでぱったり止まってしまった。


「…私泣いてどうなった?」
「おま、自分のことじゃろ?」
「だって今まで忘れてたんだもん。…まさ、私が泣いてびっくりした?」
「そりゃそうやろ、号泣やったしのう」
「えー、恥ずかしい!それでどうやって泣き止んだの?」
「え…」


突然言葉に詰まるまさ。だって、号泣してる女の子を泣き止ませるって簡単に出来ることじゃないでしょ?


「ねーねー」
「…秘密」
「えー!」

「ま、忘れた頃にでも教えるぜよ」
「私は今気になるの!」
「俺は嫌じゃ」


にやにやしながらそう言うまさには、きっと私の願いはもう叶わないだろう。


「お、赤也達に追いついたぜよ」
「心結どうしたの?大丈夫?」
「うん!なんかね、まさがここに来た時に私も一緒に来てたみたい!」
「……あ、だから!」


小春は何か閃いたような顔をして、嬉しそうに笑った。私は何のことかわからなかったけど、小春が嬉しそうならいっか!そう思って他の動物に目を移した。





「仁王くん」
「ん?」
「心結、思い出して良かったね」
「…おん」



<< しおり >>

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -