◎下手な嘘 小春side


ようやく着いた動物園。チケットを買って中に入ると、仁王くんと赤也くんはお手洗いに行ったから、私達はチケット売り場の前で待っていた。


「ねーねー小春」
「んー?」
「触れ合いコーナーってところさ、先に見に行っちゃおーよ!」


心結が見ている先には、うさぎや子ブタなど小さな動物と触れ合えるコーナーがあった。ここから見ても、子供達がたくさん集まっているのがわかる。


「でも、2人ともまだ来てないよ?」
「大丈夫でしょ!大丈夫じゃなければ電話来るだろうし!」


心結のこういう割り切れるところは、私には出来ないからいつも羨ましく思ってしまう。心結に悩み事を相談すると、思っても見ないような意見が出たりして。
心結に手を引かれて、私達は触れ合いコーナーに向かった。


「可愛いー!」
「可愛いー!」


子供達に混じって思わず私達は叫んでしまう。柵の中には、放し飼いにされたうさぎが何匹かと、隣りの柵には子ブタが2匹いた。柵の外にはポニーの子供が繋がれている。また、ひよこが別の箱のようなものに入ってよちよち歩いていた。


「どうして小さい動物はこんなに可愛いのかなぁ…」
「本当にね!にんじん食べてるだけなのにこんなに可愛いことってある?」


心結と2人、早速動物園を楽しんでしまう。子供達が触っているから直接触るという事はしていなくても、遠くから見ていてもこんなにも癒されております…。


「うんうん、にんじん美味しいの。はあ、本当かわい…ぎゃ!」


隣りでにんじんを食べるポニーに話しかけていた心結が突然の叫び声をあげた。声に驚いて心結の方を見ると、仁王くんが心結を目隠ししていた。


「まーさー!」
「ええっ心結すごい!どうしてわかるの?」
「こんなことするのまさしかいないもん!」


仁王くんはそう言われて手を離した。勢いよく振り向いた心結は、少し目がつり上がっていて。…あれ、珍しい。結構怒ってるかな…?


「くくっ、心結の声…」
「びっくりしたんだから仕方ないでしょ!…もう!今日のまさは意地悪だから嫌い!」
「え、ちょ、」


「赤也くん行こう!」、そう言って心結は赤也くんの手を引いて先に歩いていってしまった。置いていかれた、というと少し仁王くんに悪いかもしれないけれど、仁王くんの唖然とした顔を見るとその表現がぴったりと当てはまる。少しずつ離れていく2人の背中を見ながら、仁王くん立ち尽くしているように見えた。


「……」
「あの…行く?」
「…ん」


前を歩いていく2人から少し遅れて、私達も歩き始める。うう、仁王くん絶対に元気無いよね…?気まずい気持ちで前を行く2人を見ると、心結は既に赤也くんの手を引くのをやめていて。そしてどこか、ホッとしてる私がいた。


「なぁ」
「ん?」
「お前さん、好きな人おるんか?」
「え…」


仁王くんに突然尋ねられ、予想していなかった質問にかあっと顔が赤くなるのを感じた。好きな人…そんな人いない、よね。
仁王くんから目線を逸らすと、前を歩く赤也くんが目に入った。不意に心結の方を向いて笑顔を見せる赤也くん。どくんと大きく心臓が跳ねる。


「どうかしたか?」
「あの、えっと…」
「別におらんならおらんでえーよ」
「あ、じゃあいない、です」


仁王くんにバレないようにと平静をを装いながら答える。まだドキドキが止まらなくて、歩きながらゆっくりと深呼吸をした。ふと、何故だか景吾のことを思い出した。


「嘘付くの下手やのう」
「へ?」
「いや、何でもない」
「……仁王くんは、心結のこと」
「ん?」
「好き、なんだよね」







「あ、この歌いいなー」


丸井が芥川家に着いてから2時間が経過した。すでにくつろぎモードの丸井は、部屋に流れる音楽を聴きながらCDを見ている。


「いいよね。俺も最近ハマってんだー」
「他のアルバムもあんの?」
「あるよー、その辺にない?」


芥川が指さしたのはコンボの周り。確かにある事はありそうだが、思いの外積み上がっているので丸井は探すのをやめた。

「あ、そういえば今日仁王って何時くらいに来るかわかる?」
「んー、よくわかんねーけど、ご飯は食ってくるって言ってたぜい」
「あ、そうなんだ」


芥川はそう言ってゆっくり伸びをした。中学から続く2人の仲はだいぶ深くなっていて、今では2ヶ月に1回ほど泊まりをしている。


「はー、心結達楽しんでるかなぁ」
「どうだろうな」
「…仁王って、いつから心結のこと好きだったのかな。幼なじみみたいな感じなんだよね?」
「確か仁王が小学校入る前だから、5歳とかそんくらいじゃねえっけ」
「ええ!そんな時から好きだったの?」
「仁王曰く、な。本当びっくりするよなー」

「うん。…こう言っちゃ悪いけど、仁王ってチャラく見えるんだよね」
「……」



ぐらぐら揺れるのは、私だけじゃない。



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