◎眩しい季節 心結side


「段々夏、近づいてる気がするなぁ」


小春がうちわで仰ぎながらポツリと呟く。
今日は午後からシングルスの試合形式をしている。私達の今日の仕事は、審判をしている選手の報告してくれる試合結果をまとめる事。第1から第3コートまでが私、第4から第6コートまでが小春と分けての作業で、幸村くんと跡部に言われて涼しい木陰で作業していた。


「そうだね。でも、今日は風があって気持ちいいね!」
「うん、気持ちいい」


風が少し吹いて、小春の髪がふわふわと揺れた。小春は、女の私から見てもとっても綺麗だと思う。見た目もそうだけど、仕草とか言葉使いとか…性格も穏やかだし、一緒にいて憧れてしまう所がたくさんある。
そんなことを考えていると、「心結?」と小春から声が掛けられた。


「あ、はいはい!」
「第1コート、6−4で仁王さんの勝ちです」
「はーい。長太郎審判お疲れ様!」
「ありがとうございます、先輩方もお疲れ様です」
「私達なんて、みんなに比べたら…ね?」
「うんうん。長太郎も、小まめに水分補給してね?」
「はい!」


長太郎が試合に向かうのと入れ替わるようにして、跡部が現れた。跡部はさっき第5コートの審判だったから、小春の方かな?


「景吾、審判お疲れ様」
「ああ。第5コート、6−3で柳だ」
「はーい」


聞いた結果をノートに書く小春。その小春を見る跡部の目は、すごく優しそうに私には思えた。


「あ、ジローとまさ!」


試合が終わった2人が向こうから歩いてくるのが見えて、私はドリンクを取りに立ち上がった。基本的にドリンクはセルフサービスなんだけど、試合後の選手にはなるべく私達が渡すようにしていた。


「2人ともお疲れ様、はい」
「ありがと!っつーか、仁王すっげー強いC!」
「な、なんじゃいきなり」
「えーそんなすごかったの?」
「うん!俺のボレー、ことごとく返されてマジ困った!」
「そうなんだ!んむー、ここからじゃあんまり見えないもんなぁ…」


私がそう言うと、ジローは第1コートを眺めてから「でもでも!」と振り返った。そこから、まさがどのようにすごかったのか、上手かったのか。ジローは嬉しそうに話してくれていたけれど、しばらくして審判に呼ばれて行ってしまった。


「…あそこまで話されると、むず痒いのう」


ジローがいなくなって、まさはようやく声を発した。


「ふふ、それだけまさがすごかったんだね」


あーあ、第3コートでやれば良かったのになぁ。第1コートと第4コートは奥の方にあるから、実は誰が試合しているのかも分からない時もあって。


「でもまだ試合あるだろうし、次楽しみにしてよっと」
「…そう言われると緊張するき、あんま見なさんな」
「はーい、他の試合見ながら適度にまさのとこも見たらいいってことね?」


私がそう言うと、何処となくむすっとした顔のまさ。え、え、どうして?


「……」
「……」


いきなりの沈黙。…なんでどうして、こんなに気まずいの?
言葉を発せないでいると、まさの後ろから誰かの足音が聞こえた。


「仁王、手が空いてるなら第4コートの審判に行ってもらえるか?」
「おん、今行くぜよ。…心結も、もう少し頑張りんしゃい」
「う、うん!まさも審判頑張ってね!」


歩き始めようとしていた足を止めて、こちらを振り向いて頷いたまさ。まさの銀髪が、太陽に当たってキラキラ輝いていた。



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