「…ほい、紅茶。」
「……どうも。」
「で、その頬のヤツは昨日のか。」
「だいぶ派手にやられたんやねぇ。ワイらも喧嘩くらいするけど女の子の顔にこないな傷残すんはないわー。痛くあらへん?」
「別に。(…なんか、この紅茶あんま美味しくないな。)」
「そんで何があったんや?あんさんが殴られた程度でビビる程弱いとは思えんけど。」
「――…八重樫紫桐って、知ってる?」
「あぁ。アイツか。」
「八重樫がどないしたん?」
「この怪我はさ、紫桐先輩と一緒にいたから付けられたんだ。」
「「!」」
「でもそれを悪く言うつもりはない。ボク自身もそういうことがあるって心のどこかじゃ理解してたはずだし、何かしら起きるとは思ってたんだ。」
「離れなかったのか?」
「…普段なら離れたさ。でも、先輩は人を殴るその手で優しく植物に触れるんだ。そんなときは鋭い目も柔らかくなるし、甘い物が実は好きだとか子どもっぽいところもある。知ってしまうとなかなか離れられなくなったんだ。」
「情が移ったってことやん。」
「そうかもね。結局知らない奴に殴られても怒れないくらいには、近くに感じてたのかもしれない。だけど、先輩は違ってたんだよ。…いわゆる恋愛感情をボクに抱いてたみたいだ。」
「!…あの八重樫が?恋愛?嘘やん。」
「嘘なら良かった。けど事実告白された。ボクは分からないんだよ。先輩のことは嫌いじゃない、だからと言って愛してるかと聞かれても答えられない。それ以上の感情をボクはまだ知らないから。」
「(…まさか、コイツ…)恋したことが無いのか。」
「そんなものする余裕も、する相手もいなかったからね。」
「え、初恋もまだなん?」
「悪かったな、まだで。そもそもボクに恋なんて似合わないし…。」
「……何でそんなに嫌がってんだ。」
「!」
「否定して、嫌って、お前何が怖いんだよ?」
「怖がってなんかない。」
「なら何で自分は恋なんかしないって思い込んでんだ。」
「……、」
「それとも自分なんか誰も愛さないとか考えてんのか。」
「だって…」
「アイツの気持ちはどうなる?お前はそれを否定すんのか?」
「そんなつもりじゃ…ない。」
「同じだ。相手に気持ちを伝えんのがどんだけ大変か、考えた事あるか?もし今の関係が壊れたら、もし拒絶されたら…お前が思ってる以上にアイツの方が苦しいだろうな。」
「…じゃあアンタはスズにどんな感情を持ってるんだよ。どんななら恋って言うのさ。」
「そんなもん人それぞれだろ。恋を抜かして愛を感じることだって、無くは無いんじゃねぇか。」
「愛?」
「相手に何かしたいって思えるんだったら、それが愛ってもんだろ。」
「ヒューッ、龍之介もええ事言うやん!」
「うぜぇ。」
「(……)隠岐先輩。」
「なんや?」
「ここの紅茶、あんま美味しくないね。」
「え、いきなりソレ?」
「こんなもの飲ませるなんてイイ度胸じゃないか。次はスズと一緒にもっと美味しいもの奢ってもらうから。」
「…行くのか。」
「ん。アンタに教えられたなんて癪だけど、感謝するよ。ありがと。」
「キモチ悪ィ、さっさと行け。」
「口が悪いぞヘタレ狼。あることないことスズに吹き込んでやろうか?」
「(親友ちゃん復活って感じやな。)」
「じゃ、また明日。」
「あぁ。…………………………ったく、メンドくせぇ。」
「まっさか八重樫が親友ちゃんに恋するなんてなぁ。」
「そうなりゃ少しは落ち着くだろ、あの黒豹も。」
「だとええけど。」(この気持ちに名前はつけられない、この感情は初めての熱)Prev Novel top Next